・・・一揺り揺れて、ざわざわと動くごとに、池は底から浮き上がるものに見えて、しだいに水は増して来た。映る影は人も橋も深く沈んだ。早や、これでは、玄武寺を倒に投げうっても、峰は水底に支えまい。 蘆のまわりに、円く拡がり、大洋の潮を取って、穂先に・・・ 泉鏡花 「海の使者」
・・・金や銀の重みを去れば、船は、軽くなって浮き上がるでありましょう。」と、侍女らはいいました。「そんなら、みんな金や、銀を海の中に投り込んでおしまいなさい。」と、お姫さまは、侍女たちに命ぜられました。 侍女たちは、金や、銀を手に取っ・・・ 小川未明 「赤い姫と黒い皇子」
・・・柱の根元を見ると、土台のコンクリートから鉄金棒が突き出ていて、それが木の根の柱の中軸に掘込んだ穴にはまるようになっており、柱の根元を横に穿った穴にボルトを差込むとそれが土台の金具を貫通して、それで柱の浮上がるのを止めるという仕掛になっていた・・・ 寺田寅彦 「静岡地震被害見学記」
・・・ 液体静力学の実験例えば浮秤で水や固体の比重を測る時でも、毛管現象が如何に多大の影響を有するかという事を見せるために、液面に石鹸の片を触れて比重系の浮上がる様を見せる事なども必要と思う。あるいは夏季水道の水を汲んだままで実験していると溶・・・ 寺田寅彦 「物理学実験の教授について」
・・・机の前や実験室では浮かばないようないいアイディアが電車の内でひょっくり浮き上がる場合をしばしば経験する。「三上」の三上たるゆえんの要素には、肉体の拘束から来る精神の解放というもののほかにもう一つの要件があると思われる。それはある適当な感・・・ 寺田寅彦 「路傍の草」
出典:青空文庫