・・・ 聞えないどころか、利平の全神経は、たった一枚の塀をへだてて、隣りの争議団本部で起る一切の物音に対して、測候所の風見の矢のように動いているのだ。 ナ、何を馬鹿な、俺は仮にも職長だ、会社の信任を負い、また一面、奴らの信頼を荷のうて、数・・・ 徳永直 「眼」
・・・あんな旱魃の二年続いた記録が無いと測候所が云ったのにこれで三年続くわけでないか。大堰の水もまるで四寸ぐらいしかない。夕方になってやっといままでの分へ一わたり水がかかった。 三時ごろ水がさっぱり来なくなったからどうしたのかと思って大堰の下・・・ 宮沢賢治 「或る農学生の日誌」
・・・けれども僕たちの方のきめでは気象台や測候所の近くへ来たからって俄に急いだりすることは大へん卑怯なことにされてあるんだ。お前たちだってきっとそうだろう、試験の時ばかりむやみに勉強したりするのはいけないことになってるだろう。だから僕たちも急ぎた・・・ 宮沢賢治 「風野又三郎」
・・・銀河の、かたちもなく音もない水にかこまれて、ほんとうにその黒い測候所が、睡っているように、しずかによこたわったのです。「あれは、水の速さをはかる器械です。水も……。」鳥捕りが云いかけたとき、「切符を拝見いたします。」三人の席の横に、・・・ 宮沢賢治 「銀河鉄道の夜」
・・・どうもあの恐ろしい寒い気候がまた来るような模様でした。測候所では、太陽の調子や北のほうの海の氷の様子から、その年の二月にみんなへそれを予報しました。それが一足ずつだんだんほんとうになって、こぶしの花が咲かなかったり、五月に十日もみぞれが降っ・・・ 宮沢賢治 「グスコーブドリの伝記」
出典:青空文庫