・・・後年ケルヴィン卿が化学会の晩餐演説でこの事を引合に出し、レーリー卿は十二歳のときに燐で指を焼いたそうだが、自分は八十二歳のときに全く同じ火傷をしたと云った。 十四歳のとき Harrow に入ったが、二年級になってから胸の病を得て退学した・・・ 寺田寅彦 「レーリー卿(Lord Rayleigh)」
・・・ 胃袋へ流し込んだ醋酸の火傷がなおるにつれ、グラフィーラの生活には希望と明るみがさして来た。これまで知らなかった、暢々したひろさでさして来た。ソモフは、万事を約束通りにしてくれ、彼女は工場へ働き出した。 まるで新しい生活がグラフィー・・・ 宮本百合子 「「インガ」」
・・・固いタコができてラジウムの火傷の痕のある手を持った小柄な五十がらみの一人の婦人が、着のみ着のままで野天のテントの中に眠っている。その蒼白い疲れた顔を見た人は、それが世界のキュリー夫人であり、ノーベル賞の外に六つの世界的な賞を持ち、七つの賞牌・・・ 宮本百合子 「キュリー夫人」
・・・世界の物理学が原子の問題をとりあげ得る段階に迄到達していたからこそ、ポーランドの精励なる科学女学生の手はピエール・キュリーの創見と結び合わされ、彼女の手もラジウムの名誉ある火傷のあとをもつようになった。愛は架空にはない。原子が、人間の幸福の・・・ 宮本百合子 「まえがき(『真実に生きた女性たち』)」
・・・ 靴屋の見習小僧にやられたゴーリキイが、火傷をして祖父の家に帰された。その時、九つばかりであった彼は、同じ建物の中に住んでいるリュドミラという年上の跛足の女の子と大仲よしになった。二人は湯殿の中へかくれて本を読み合った。リュドミラの母親・・・ 宮本百合子 「マクシム・ゴーリキイによって描かれた婦人」
・・・ たまにおとなしく台所にかたまっていると思うと、この大人達は自分が先棒になって、半分盲目になっている染物職人のグレゴリーの指貫をやいて置いて哀れな職人が火傷するのを見て悦ぶ有様である。子供らは、家にいれば大人の喧嘩にまきこまれ、往来での・・・ 宮本百合子 「マクシム・ゴーリキイの伝記」
・・・は、朝から晩まで鉛を溶かしたり、小さい天秤で何かをはかったり、指の先へ火傷をしてうんうんとうなったり、すり切れた手帳を出して、何かしきりに書き込んだりする。 ゴーリキイは、興味を押えられず、お祖母さんに聞いた。「あの人は何してるの?・・・ 宮本百合子 「マクシム・ゴーリキイの発展の特質」
・・・さもなければ、こういう伯父たちが先棒になって、半分盲目になった染物職人の指貫きをやいておいて火傷をさせて悦ぶような残酷で卑劣なわるさを企らむ。あらゆる悪態、罵声、悪意が渦巻くような苦しい毎日なのであるが、その裡でゴーリキイを更に立腹させたの・・・ 宮本百合子 「逝けるマクシム・ゴーリキイ」
出典:青空文庫