出典:青空文庫
・・・しかもその動いてゆく先は、無始無終にわたる「永遠」の不可思議だという気がする。吾妻橋、厩橋、両国橋の間、香油のような青い水が、大きな橋台の花崗石とれんがとをひたしてゆくうれしさは言うまでもない。岸に近く、船宿の白い行灯をうつし、銀の葉うらを・・・ 芥川竜之介 「大川の水」
・・・四面に海をめぐらす大八州国に数千年住み着いた民族の遠い祖先からの数限りもない海の幸いと海の禍いとの記憶でいろどられた無始無終の絵巻物である。そうしてこの荒海は一面においてはわれわれの眼前に展開する客観の荒海でもあると同時にまたわれわれの頭脳・・・ 寺田寅彦 「俳句の精神」
・・・地を這う蟻の喜悦から、星の壊る悲哀まで、無涯の我に反映して無始無終の彼方に還るのではございますまいか。 同じ、「我」と云う一音を持ちながら、その一字のうちに見る差が在る事でございましょう。考えて見ると冷汗が出ます。けれども、冷汗を掻くか・・・ 宮本百合子 「C先生への手紙」