・・・このへんは物騒で、お使いに出るときっといやないたずらをされますので、どうも恐ろしくて不気味で勤まりませぬと妙な事を言う。しかし見るとおりの病人をかかえて今急におまえに帰られては途方にくれる。せめて代わりの人のあるまで辛抱してくれと、よしやま・・・ 寺田寅彦 「どんぐり」
・・・ お初は、何かに追ったてられるように、「あんた、争議団では、また今朝、変な奴らが、沢山何ッかから、来たんだよ………あんな物騒な奴らだものあんた、ほんとうに、命でもとり兼ねないよ……あれ、ホラ、あんな沢山ガヤガヤ云ってるじゃないの、聞・・・ 徳永直 「眼」
・・・御維新此方ア、物騒でげすよ。お稲荷様も御扶持放れで、油揚の臭一つかげねえもんだから、お屋敷へ迷込んだげす。訳ア御わせん。手前達でしめっちまいやしょう。」 鳶の清五郎は小屋の傍まで、私を脊負って行って呉れた。 今朝方、暁かけて、津々と・・・ 永井荷風 「狐」
・・・御互の世は御互に物騒になった。物騒の極子規はとうとう骨になった。その骨も今は腐れつつある。子規の骨が腐れつつある今日に至って、よもや、漱石が教師をやめて新聞屋になろうとは思わなかったろう。漱石が教師をやめて、寒い京都へ遊びに来たと聞いたら、・・・ 夏目漱石 「京に着ける夕」
・・・何となく物騒な気合である。この時津田君がもしワッとでも叫んだら余はきっと飛び上ったに相違ない。「それで時間を調べて見ると細君が息を引き取ったのと夫が鏡を眺めたのが同日同刻になっている」「いよいよ不思議だな」この時に至っては真面目に不・・・ 夏目漱石 「琴のそら音」
出典:青空文庫