・・・田崎は伝通院前の生薬屋に硫黄と烟硝を買いに行く。残りのものは一升樽を茶碗飲みにして、準備の出来るのを待って居る騒ぎ。兎や角と暇取って、いよいよ穴の口元をえぶし出したのは、もう午近くなった頃である。私は一同に加って狐退治の現状を目撃したいと云・・・ 永井荷風 「狐」
・・・それを心から感心して見るのは、どうしたって、本町の生薬屋の御神さんと同程度の頭脳である。こんな謀反人なら幾百人出て来たって、徳川の天下は今日までつづいているはずである。松平伊豆守なんてえ男もこれと同程度である。番傘を忠弥に差し懸けて見たりな・・・ 夏目漱石 「明治座の所感を虚子君に問れて」
・・・「一、山男紫紺を売りて酒を買い候事、山男、西根山にて紫紺の根を掘り取り、夕景に至りて、ひそかに御城下(盛岡へ立ち出で候上、材木町生薬商人近江屋源八に一俵二十五文にて売り候。それより山男、酒屋半之助方へ参り、五合入程の瓢箪を差出し、こ・・・ 宮沢賢治 「紫紺染について」
出典:青空文庫