･･･ 時に、その年は、獲ものでなしに、巣の白鷺の産卵と、生育状態の実験を思立たれたという。……雛ッ子はどんなだろう。鶏や、雀と違って、ただ聞いても、鴛鴦だの、白鷺のあかんぼには、博物にほとんど無関心な銑吉も、聞きつつ、早くまず耳を傾けた。･･･ 泉鏡花 「神鷺之巻」
･･･そこが、産卵を終わった彼らの墓場だったのだ。 俺はそれを見たとき、胸が衝かれるような気がした。墓場を発いて屍体を嗜む変質者のような残忍なよろこびを俺は味わった。 この溪間ではなにも俺をよろこばすものはない。鶯や四十雀も、白い日光をさ･･･ 梶井基次郎 「桜の樹の下には」
･･･ドンコほど夫婦愛が深く、また、父性愛の強いものはない。産卵期になるといつもアベックだが、卵を産んでしまうと、雌はどこかへ行ってしまう。あとを守るのは雄だ。卵のところを離れず、いつもヒレを動かしながら、水をきれいに交流させる。外敵が来ると、こ･･･ 火野葦平 「ゲテ魚好き」
･･･ー・ウィンドウのガラス面に自分の顔を、内部にこの商品を眺めつつぶらつき、やがて三十分もするとロンドン市中、あらゆる地下電車ステーションの昇降機とエスカレータアは黒い人間の粒々を密集させて廻転する巨大な産卵紙となる。乗合自動車、郊外列車。夕刊･･･ 宮本百合子 「ロンドン一九二九年」
出典：青空文庫
