・・・けれどもまた一方観音力の絶大なる加護を信ずる。この故に念々頭々かの観音力を念ずる時んば、例えばいかなる形において鬼神力の現前することがあるとも、それに向ってついに何等の畏れも抱くことがない。されば自分に取っては最も畏るべき鬼神力も、またある・・・ 泉鏡花 「おばけずきのいわれ少々と処女作」
・・・べければ也とのことである、地も亦神の有である、是れ今日の如くに永久に神の敵に委ねらるべき者ではない、神は其子を以て人類を審判き給う時に地を不信者の手より奪還して之を己を愛する者に与え給うとの事である、絶大の慰安を伝うる言辞である。 饑渇・・・ 内村鑑三 「聖書の読方」
・・・しかもこの発見はデンマーク国の開発にとりては実に絶大なる発見でありました、これによってユトランドの荒地挽回の難問題は解釈されたのであります。これよりして各地に鬱蒼たる樅の林を見るにいたりました。一八六〇年においてはユトランドの山林はわずかに・・・ 内村鑑三 「デンマルク国の話」
・・・我々が永久に此の現実を究めつくすことが出来ないにも繋わらず、而かも恒にそれに対して絶大の愛着を感じ、どうしてもそれから離れる事の出来ないのは、現実が即ち無限の力だからである。 現実は説明の出来ない力であるが、若し芸術家が真に此の現実の前・・・ 小川未明 「囚われたる現文壇」
・・・ 実際、いかに絶大の権力を有し、百万の富を擁して、その衣食住はほとんど完全の域に達している人びとでも、またかの律僧や禅家などのごとく、その養生のためには常人の堪えるあたわざる克己・禁欲・苦行・努力の生活をなす人びとでも、病なくして死ぬの・・・ 幸徳秋水 「死刑の前」
・・・ 実際如何に絶大の権力を有し、巨万の富を擁して、其衣食住は殆ど完全の域に達して居る人々でも、又た彼の律僧や禅家などの如く、其の養生の為めには常人の堪ゆる能わざる克己・禁欲・苦行・努力の生活を為す人々でも、病いなくして死ぬのは極めて尠いの・・・ 幸徳秋水 「死生」
・・・疼痛、疼痛、その絶大な力と戦わねばならぬ。 潮のように押し寄せる。暴風のように荒れわたる。脚を固い板の上に立てて倒して、体を右に左にもがいた。「苦しい……」と思わず知らず叫んだ。 けれど実際はまたそう苦しいとは感じていなかった。苦し・・・ 田山花袋 「一兵卒」
・・・針一本でも突き刺されば助からぬ脳髄を、これだけの弾丸が貫通して平気でいられるのは、その弾丸が微小であるためというよりはむしろあまりに貫通力が絶大であるためであるとも考えられる。 それはとにかく、こういう弾丸が脳を貫通していて、それが絶対・・・ 寺田寅彦 「蒸発皿」
・・・そして絶大な努力を仕遂げてあえいででもいるように波打っていた。そこで惜しいところで映画はふっと消滅してしまった。 私はなんだか恐ろしいものを見たような気がした。つまらない草花がみんな「いきもの」だという事をこれほど明白に見せつけられたの・・・ 寺田寅彦 「春六題」
・・・我々はかかる場合において、深く己の無力なるを知り、己を棄てて絶大の力に帰依する時、後悔の念は転じて懺悔の念となり、心は重荷を卸した如く、自ら救い、また死者に詫びることができる。『歎異抄』に「念仏はまことに浄土に生るゝ種にてやはんべるらん、ま・・・ 西田幾多郎 「我が子の死」
出典:青空文庫