・・・ 余り唐突な狼藉ですから、何かその縁組について、私のために、意趣遺恨でもお受けになるような前事が有るかとお思われになっては、なおこの上にも身の置き処がありませんから――」 七「実に、寸毫といえども意趣遺恨はあ・・・ 泉鏡花 「革鞄の怪」
・・・そして、可愛いお嬢さんが、決して決して河野なんかと御縁組なさいませんよう。早瀬 それから。お蔦 それから?早瀬 それから、……お蔦 だって、あとは分ってるじゃありませんかね。ほほほほ。早瀬 ははは、で、何を買って来たんだ・・・ 泉鏡花 「湯島の境内」
・・・もうまもなく振袖も見っともなくなったのでわきをふさいでからも二三度縁組みして十四の時から嫁に行き初めて二十五まで十八所出て来たり出されたりしたんで段々人が「女にもあんなあばずれ者があるもんですかネー」と云いひろめられたので後では望み手も・・・ 著:井原西鶴 訳:宮本百合子 「元禄時代小説第一巻「本朝二十不孝」ぬきほ(言文一致訳)」
・・・ 然るに六十何人の大家族を抱えた榎本は、表面は贅沢に暮していても内証は苦しかったと見え、その頃は長袖から町家へ縁組する例は滅多になかったが、家柄よりは身代を見込んで笑名に札が落ちた。商売運の目出たい笑名は女運にも果報があって、老の漸く来・・・ 内田魯庵 「淡島椿岳」
・・・先夫人は養家の家附娘だともいうし養女だともいうが、ドチラにしても若い沼南が島田家に寄食していた時、懐われて縁組した恋婿であったそうだ。沼南が大隈参議と進退を侶にし、今の次官よりも重く見られた文部権大書記官の栄位を弊履の如く一蹴して野に下り、・・・ 内田魯庵 「三十年前の島田沼南」
・・・随分また縹致や気立てに惚れた縁組も、世間にないとは限りませんもの。阿母さんのように言ってしまった日には、まるで男女の情間なんてものはなさそうですけど、今だって何じゃありませんか、惚れたのはれたのと、欲も得も忘れて一生懸命になる人もあるし、よ・・・ 小栗風葉 「深川女房」
・・・道太の祖父の代に、古い町家であったその家へ、縁組があった。いつごろそんな商売をやりだしたか知らなかったが、今でも長者のような気持でいるおひろたちの母親は、口の嗜好などのおごったお上品なお婆さんであった。時代の空気の流れないこの町のなかでも、・・・ 徳田秋声 「挿話」
・・・七 配偶者ノ直系尊属ヨリ虐待又ハ重大ナル侮辱ヲ受ケタルトキ八 配偶者カ自己ノ直系尊属ニ対シテ虐待ヲ為シ又ハ重大ナル侮辱ヲ加ヘタルトキ九 配偶者ノ生死カ三年以上分明ナラサルトキ十 壻養子縁組ノ場合ニ於テ離縁アリタルトキ又ハ養子・・・ 福沢諭吉 「女大学評論」
・・・男がそのような計量で恋愛をするのみか、若い女も今日では、あわれにもそれを近代性が彼女に与えた賢さであると勘ちがいしているのが少くない、これらの事情はもつれあって、全く旧来の家と家との縁組みの習俗へ若い世代を繋ぐかたわら、それは現代の経済内容・・・ 宮本百合子 「成長意慾としての恋愛」
・・・町人に生まれ、折から興隆期にある町人文化の代表者として、西鶴は談林派の自在性、その芸術感想の日常性を懐疑なく駆使して、当時の世相万端、投機、分散、夜逃げ、金銭ずくの縁組みから月ぎめの妾の境遇に到るまでを、写実的な俳諧で風俗描写している。住吉・・・ 宮本百合子 「芭蕉について」
出典:青空文庫