・・・機に触れて交換する双方の意志は、直に互いの胸中にある例の卵に至大な養分を給与する。今日の日暮はたしかにその機であった。ぞっと身振いをするほど、著しき徴候を現したのである。しかし何というても二人の関係は卵時代で極めて取りとめがない。人に見られ・・・ 伊藤左千夫 「野菊の墓」
・・・その始めは、一片の毛の飛ぶに似たるものが、一瞬の後に、至大な勢力となり、さらに、一瞬の後には、ついに満天を掩いつくすを珍らしとしない。小なるものが次第に成長して、大きくなるのには、理由の存するとして、敢て、不思議とは考えないが、いかにして、・・・ 小川未明 「常に自然は語る」
・・・ かくのごとき場合に普通の簡単なる公算論の結果を応用せんとするには至大の注意を要する事は明らかなるべし。 五 予報の可能不可能という事は、考え方によればあまりに無意味なる言葉なり。例えば今月中少なくも各一・・・ 寺田寅彦 「自然現象の予報」
・・・始めて文芸が世道人心に至大の関係があるのを悟るのであります。我々は生慾の念から出立して、分化の理想を今日まで持続したのでありますから、この理想をある手段によって実現するものは、我々生存の目的を、一層高くかつ大いにした功蹟のあるものであります・・・ 夏目漱石 「文芸の哲学的基礎」
・・・そのこれを導くは何のためにするやと尋ぬれば、人類をして至大の幸福を得せしめんがためなり。その至大の幸福とは何ぞや。ここに文字の義を細かに論ぜずして民間普通の語を用うれば、天下泰平・家内安全、すなわちこれなり。今この語の二字を取りて、かりにこ・・・ 福沢諭吉 「教育の目的」
・・・男女の関係は人生に至大至重の事なり。 夫婦家に居て親子・兄弟姉妹の関係を生じ、その関係について徳義の要用を感じ、家族おのおのこれを修めて一家の幸福いよいよ円満いよいよ楽し。即ち居家の道徳なれども、人間生々の約束は一家族に止まらず、子々孫・・・ 福沢諭吉 「日本男子論」
・・・ 天下後世に定論もあるべきなれば、氏の為めに謀れば、たとい今日の文明流に従って維新後に幸に身を全うすることを得たるも、自から省みて我立国の為めに至大至重なる上流士人の気風を害したるの罪を引き、維新前後の吾身の挙動は一時の権道なり、権りに・・・ 福沢諭吉 「瘠我慢の説」
・・・ 平常から非常に母に対して情深い子で、人混みの中や等に出ると、その小さい手と足で自分の至大な母に迫って来る乱暴者をつけのけ様とし、顔を赤くし、小さい唇を噛(いしばって、自分の力の充分でない事を悲しみながら尊い努力を仕つづけるのです。・・・ 宮本百合子 「二月七日」
出典:青空文庫