・・・ 母性の愛の発動する形は大体右の例のように、本能的感情と、養、教育の物質のための犠牲的労働と、精神的薫陶のためのきびしい訓誡と切なる願訴との三つになって現われるように思う。 動物的、本能的感情の稀薄な母性愛は骨ぬきの愛である。これが・・・ 倉田百三 「女性の諸問題」
・・・恭二君は明治十年十月二十四日東京で生れ、芝桜田小学校から日本中学校に入り故杉浦重剛氏の薫陶を受けた。第一高等学校を経て東京帝国工科大学造船学科へ入学し、明治三十三年卒業した。高等学校時代厳父の死に会い、当時家計豊かでなかったため亡父の故旧の・・・ 寺田寅彦 「工学博士末広恭二君」
・・・ 父と母とは自分たちのつくったものが、望むようなものに成らなければ、これを憎むと共に、また自分たちの薫陶の力の足りなかったことを悲しむであろう。猫が犬よりも人に愛せられないのは、犬のように柔順でないからである。わたくしの父はわたくしが文・・・ 永井荷風 「西瓜」
・・・のほかに、私自身の言葉を蛇足ながらつけ加えて、先生の告別の辞が、先生の希望どおり、先生の薫陶を受けた多くの人々の目に留まるように取り計らうのである。そうしてその多くの人々に代わって、先生につつがなき航海と、穏やかな余生とを、心から祈るのであ・・・ 夏目漱石 「ケーベル先生の告別」
・・・しかして評家が従来の読書及び先輩の薫陶、もしくは自己の狭隘なる経験より出でたる一縷の細長き趣味中に含まるるもののみを見て真の文学だ、真の文学だと云う。余はこれを不快に思う。 余は評家ではない。前段に述べたる資格を有する評家では無論ない。・・・ 夏目漱石 「作物の批評」
・・・ 然らばすなわち、徳行の条目を示し、人たるものはかくあるべし、かくあるべからずと、ていねい反覆その利害を説明して、少年の心を薫陶するこそ、徳育の本意なるべきに、全編の文面を概すれば、むしろ心理学の解釈とも名づくべきものにして、読者をして・・・ 福沢諭吉 「読倫理教科書」
・・・その信じがたいことを、美風としてその校長は考え、そう考えることは常規を逸して殆ど精神の病気であるのだから、児童の薫陶などはゆだねておけない事を証明するのだとは考えなかったのである。 さすがにそれをきいた人たちは呆然としたそうだが、そこま・・・ 宮本百合子 「今日の生活と文化の問題」
出典:青空文庫