・・・ 倫理学史にはフリードリッヒ・ヨードルの『倫理学史』、ヘンリイ・シヂウィックの『倫理学史の輪郭』、ニコライ・ハルトマンの『独逸観念論史』等がある。邦文には吉田博士の『倫理学史』、三浦藤作の『輓近倫理学説研究』等があるが、現代の倫理学、特・・・ 倉田百三 「学生と教養」
・・・ それから、百姓の中には、いまだに、自分が農民であるという観念に強くとらわれて、労働者は彼等と対立するかの如く思いこんでいる者が少くない。農民から立候補した者は、自分の味方であるが、労働者は、自分たちの利益を考えないものであるように思っ・・・ 黒島伝治 「選挙漫談」
・・・しかるに骨董いじりをすると、骨董には必ずどれほどかの価があり金銭観念が伴うので、知らず識らずに賤しくなかった人も掘出し気になる気味のあるものである。これは骨董のイヤな箇条の一つになる。 掘出し物という言葉は元来が忌わしい言葉で、最初は土・・・ 幸田露伴 「骨董」
・・・次郎の出発を機会に、ようやく私も今の住居に居座りと観念するようになった。 私はひとりで、例の地下室のような四畳半の窓へ近く行った。そこいらはもうすっかり青葉の世界だった。私は両方の拳を堅く握りしめ、それをうんと高く延ばし、大きなあくびを・・・ 島崎藤村 「嵐」
・・・人生観はすなわち実行的人生の目的と見えるもの、総指揮と見えるものに識到した観念でないか。いわゆる実行的人生の理想または帰結を標榜することでないか。もしそうであるなら、私にはまだ人生観を論ずる資格はない。なぜならば、私の実行的人生に対する現下・・・ 島村抱月 「序に代えて人生観上の自然主義を論ず」
・・・これは、観念である。心構えである。日常坐臥は十分、聡明に用心深く為すべきである。 君の聞き上手に乗せられて、うっかり大事をもらしてしまった。これは、いけない。多少、不愉快である。 君に聞くが、サンボルでなければものを語れない人間の、・・・ 太宰治 「一日の労苦」
・・・これを錬え直して造った新しい鋭利なメスで、数千年来人間の脳の中にへばり付いていたいわゆる常識的な時空の観念を悉皆削り取った。そしてそれを切り刻んで新しく組立てた「時空の世界像」をそこに安置した。それで重力の秘密は自明的に解釈されると同時に古・・・ 寺田寅彦 「アインシュタイン」
・・・ 道太は来たのなら来たでいいと思って観念していたが、昨日思いがけなく兄のところで見た様子によると、子供のころから姿振に無頓著すぎる質であったとはいえ、近ごろはあまり見いい風をしていないのが、姉妹たちの手前恥ずかしかった。 しかしお絹・・・ 徳田秋声 「挿話」
・・・わたくしはそもそもかくの如き観念をいずこから学び得たのであろうか。その由って来るところを尋ねる時、少年のころ親しく見聞した社会一般の情勢を回顧しなければならない。即ち明治十年から二十二、三年に至る間の世のありさまである。この時代にあって、社・・・ 永井荷風 「西瓜」
・・・これはもとより冗談であるが、先生の頭の奥に、区々たる場所を超越した世界的の観念が潜んでいればこそ、こんな挨拶もできるのだろう。またこんな挨拶ができればこそ、たいした興味もない日本に二十年もながくいて、不平らしい顔を見せる必要もなかったのだろ・・・ 夏目漱石 「ケーベル先生の告別」
出典:青空文庫