・・・そしてまたこの家の主人に対して先輩たる情愛と貫禄とをもって臨んでいる綽々として余裕ある態度は、いかにもここの細君をしてその来訪を需めさせただけのことは有る。これに対座している主人は痩形小づくりというほどでも無いが対手が対手だけに、まだ幅が足・・・ 幸田露伴 「鵞鳥」
・・・額も顎も両の手も、ほんのり色白くなったようで、お化粧が巧くなったのかも知れないが、大学生を狂わせてはずかしからぬ堂々の貫禄をそなえて来たのだ。お金の有る夜は、いくらでも、いくらでも、その女のひとにだまされて、お金を無くする。そうして、女のひ・・・ 太宰治 「狂言の神」
・・・昨今ますます青森県の重要人物らしい貫禄を具えて来ました。なかなか立派です。人の応待など出来て来ました。あのまま伸びたら、良い人物になり社会的の働きに於いても、すぐれたる力量を示すのも遠い将来ではございますまい。二十五歳で町長、重役頭取。二十・・・ 太宰治 「虚構の春」
・・・日本画家、洋画家、彫刻家、戯曲家、舞踏家、評論家、流行歌手、作曲家、漫画家、すべて一流の人物らしい貫禄を以て、自己の名前を、こだわりなく涼しげに述べ、軽い冗談なども言い添える。私はやけくそで、突拍子ない時に大拍手をしてみたり、ろくに聞いても・・・ 太宰治 「善蔵を思う」
・・・家附き娘だけあって、貫禄はあるし、どこから見たって立派な奥さんだわ。先生は果報者ね。あんな奥さんだったら、養子もまんざらでないでしょう?なぜ、あなたは、そんなつまらない事ばかり言うのです。よしましょう、もう、そんな話は。何かきょう僕に用・・・ 太宰治 「春の枯葉」
・・・背後のドアをそっと細めにあけ、舞台を覗いて、「何か、こう、貫禄とでも、いったようなものが在りますね。まるで、別人の感じだ。ああ、退場した。」ドアをぴたとしめて、青年の顔をちらと見て、不敵に笑い、「うまい! 落ちついていやがる。あいつは、まだ・・・ 太宰治 「火の鳥」
・・・三十四歳で死したるかれには、大作家五十歳六十歳のあの傍若無人のマンネリズムの堆積が、無かったので、人は、かれの、ユーゴー、バルザックにも劣らぬ巨匠たる貫禄を見失い、或る勇猛果敢の日本の男は、かれをカナリヤとさえ呼んでいた。 淀野隆三訳、・・・ 太宰治 「碧眼托鉢」
出典:青空文庫