・・・そして不平を言い人を責める前にわれわれ自身がもう少ししっかりしなくてはいけないという気がして来た。 断水はまだいつまで続くかわからないそうである。 どうしても「うちの井戸」を掘る事にきめるほかはない。・・・ 寺田寅彦 「断水の日」
・・・芸術にでも総てそういうような一種の法則というものがあって、それを守らなければならぬように周囲が吾人に責めるのであります。一方ではイミテーション、自分から進んで人の真似をしたがる。一方ではそういう法則があって、外の人から自分を圧迫して人に従わ・・・ 夏目漱石 「模倣と独立」
・・・終に記者と士官とが相談して二、三人ずつの総代を出して船長を責める事になった。自分も気が気でないので寐ても居られぬから弥次馬でついて往た。船長と事務長とをさんざん窮迫したけれど既往の事は仕方がない。何でも人夫どもに水を飲ませるのが悪いというの・・・ 正岡子規 「病」
・・・ お里や早瀬の時には心づかなかったが、小町になって、少将が夜な夜な扉を叩く音が宛然、我身を責めるように「響く」と云うのを、宗之助は、高々と「シビク」と云った。無神経はよろこばしくない。〔一九二三年七月〕・・・ 宮本百合子 「気むずかしやの見物」
・・・とがめ、責める先に暗澹とした心持になります。 こう云う、本当のあやまちを少なくするには、どう心掛けたらいいのでしょう。 近頃頻りにいわれる性教育も、補助的知識の一つとしては無いに勝るでしょう。けれども、人間として自分達が出来るだけ崇・・・ 宮本百合子 「惨めな無我夢中」
・・・三 また、私は人を責めることの恐ろしさをもしみじみと感じました。私はある思想に拠って行為を非難する事があります。そうして時には自分の行為もまた同じように非難せられなければならない事を忘れています。 ある時私は友人と話して・・・ 和辻哲郎 「ある思想家の手紙」
・・・僕は法隆寺の壁画や高野の赤不動、三井寺の黄不動の類を拉しきたって現在の日本画を責めるような残酷をあえてしようとは思わない。しかし大和絵以後の繊美な様式のみが伝統として現代に生かされ、平安期以前の雄大な様式がほとんど顧みられていないことは、日・・・ 和辻哲郎 「院展遠望」
・・・私は自分の努力の不足を責める代わりに、仕事がうまく行かなかったことでイライラする。自分の生活の弛緩を責める代わりに自分がより高くならないことでイライラする。そうしてある悪魔の手を、――あるいは不運と不幸を呪おうとする。何という軽率だろう。も・・・ 和辻哲郎 「停車場で感じたこと」
・・・作者はどの人物をも責める態度で描くということがない。ちょうど「物が言い切れない」と言われていると同様に、人物をも一つの性格に片づけ切れないという趣が見える。苦労した人の目から見れば、人生はそういうふうに見えるかもしれない。遠くから見て、不埒・・・ 和辻哲郎 「藤村の個性」
出典:青空文庫