・・・嫁の身を以て見れば舅姑は夫の父母にして自分の父母に非ざるが故に、即ち其ありのまゝに任せ、之を家の長老尊属として丁寧に事うるは固より当然なれども、実父母同様に親愛の情ある可らざるは是亦当然のことゝして、初めより相互に余計の事を求めず、自然の成・・・ 福沢諭吉 「女大学評論」
・・・その言にいわく、近来我が国の子弟は、その品行ようやく軽薄におもむき、父兄の言を用いず、長老の警をかえりみず、はなはだしきは弱冠の身をもって国家の政治を談じ、ややもすれば上を犯すの気風あるが如し。ひっきょう、学校の教育不完全にして徳育を忘れた・・・ 福沢諭吉 「徳育如何」
・・・けだし支那流にいう磊落とはいかなる意味か、その吟味はしばらく擱き、今日の処にては、磊落と不品行と、字を異にして義を同じうし、磊々落々は政治家の徳義なりとて、長老その例を示して少壮これに傚い、遂に政治社会一般の風を成し、不品行は人の体面を汚す・・・ 福沢諭吉 「日本男子論」
・・・ デビスというのは、ご存知の方もありましょうが、私たちの派のまあ長老です、ビジテリアン月報の主筆で、今度の大祭では祭司長になった人であります。そこで、私たちは、俄かに元気がついて、まるで一息にその峠をかけ下りました。トルコ人たちは脚が長・・・ 宮沢賢治 「ビジテリアン大祭」
・・・に文壇の長老が参加していることにもあらわれています。『近代文学』のグループといえば、ブルジョア民主主義の限界内で、個人主義的な主体性の確立の論議にとらわれていたようだけれども、去年の夏からファシズム反対の積極的な活動体となってきています。少・・・ 宮本百合子 「新しい抵抗について」
・・・ 世界のブルジョアどもも、マクシム・ゴーリキーが当代のプロレタリア作家の真摯な長老であり、優れた作家であることは認める。しかし、彼のすべての芸術的天分、プロレタリア解放への永い年月の実践を、最も効果的に国際的に輝かしく未来に向って意味を・・・ 宮本百合子 「一連の非プロレタリア的作品」
・・・弁護士界の長老である正木、長野、和光、吉田などをこめる十一名の弁護士がこの公判に参加している。これらの弁護士団は、「本件の如き憲法や新刑訴の趣旨を蹂りんしているのではないかと被告がすでに思っているような事件においては」「法令が適正に運用され・・・ 宮本百合子 「それに偽りがないならば」
・・・ 皆さん新聞で御承知のことと思いますが、部落解放運動の長老として有名な代議士の松本治一郎氏が開院式のとき天皇に拝閲することを拒絶して問題になりました。なぜ松本氏が拒絶したかといえば「蟹の横這い」が厭だったというのです。天皇がまっすぐに向・・・ 宮本百合子 「平和運動と文学者」
・・・彼が働いている仕事場は偶然、ニージニの職人組合の長老、染物工場主カシーリンの隣りである。 或る夏のことであった。カシーリンの妻アクリーナが娘のワルワーラと一緒に庭で何心なく夷苺をとっていると、隣家との境の塀をやすやすのり踰えて一人の逞し・・・ 宮本百合子 「マクシム・ゴーリキイの伝記」
・・・ニージュニの職人組合の長老をやり、染物工場をもったりしていた祖父は、自分の娘が一文なしの渡り者の指物師などと一緒になることを辛棒できなかったのである。 五つの時父はコレラで死に、幼いゴーリキイは母と一緒にニージュニへかえって祖父の家で暮・・・ 宮本百合子 「マクシム・ゴーリキイの人及び芸術」
出典:青空文庫