・・・ みだらだの、風儀を乱すの、恥を曝すのといって、どうする気だろう。浪で洗えますか、火で焼けますか、地震だって壊せやしない。天を蔽い地に漲る、といった処で、颶風があれば消えるだろう。儚いものではあるけれども――ああ、その儚さを一人で身に受・・・ 泉鏡花 「縷紅新草」
・・・こんな風儀はどこの国に行っても変った事はない。 加賀の国の城下本町筋に絹問屋左近右衛門と云うしにせあきんどがあった。其の身はかたく暮して身代にも不足なく子供は二人あったけれ共そうぞくの子は亀丸と云って十一になり姉は小鶴と云って十四である・・・ 著:井原西鶴 訳:宮本百合子 「元禄時代小説第一巻「本朝二十不孝」ぬきほ(言文一致訳)」
・・・私はある時郷国の小学校に就て其の内幕をみるの機会を得たのであるが、其の風儀の壊廃は実に驚くに堪えたるものであった。それは矢張り政党等の内幕にあるような実情問題であった。何れの社会でも今日の状態ではきたない事はある。それが小学校に於て児童の事・・・ 小川未明 「人間性の深奥に立って」
・・・これは先生を侮辱した訳ではありません、また先生に見せるためにわざわざ遣ったのでもありませんが、とにかくよほど予備門などにおったわれわれ時代の書生の風儀は乱暴でありました。現にこの学校の中を下駄で歩くのです。私も下駄で始終歩いた一人で、今はつ・・・ 夏目漱石 「模倣と独立」
・・・子弟を学塾に入れ或は他国に遊学せしむる者ありて、文武の風儀にわかに面目を改め、また先きの算筆のみに安んぜざる者多し。ただしその品行の厳と風致の正雅とに至ては、未だ昔日の上士に及ばざるもの尠なからずといえども、概してこれを見れば品行の上進とい・・・ 福沢諭吉 「旧藩情」
・・・海辺はどうも日本も同じで余り風儀がよくないため、やはり山へ行く人の方が多いようです。都会の夏を避けて溪流の音を聞きながら全く自然に親んで、簡単な「必要の生活」をおくるということは考えただけでも愉快ではありませんか。 金に飽かせて随分馬鹿・・・ 宮本百合子 「女学生だけの天幕生活」
出典:青空文庫