・・・彼等は皆頸のまわりに、緒にぬいた玉を飾りながら、愉快そうに笑い興じていた。内陣に群がった無数の鶏は、彼等の姿がはっきりすると、今までよりは一層高らかに、何羽も鬨をつくり合った。同時に内陣の壁は、――サン・ミグエルの画を描いた壁は、霧のように・・・ 芥川竜之介 「神神の微笑」
・・・ただわたしの話の取り柄は、この有王が目のあたりに見た、飾りのない真実と云う事だけです。ではどうかしばらくの間、御退屈でも御聞き下さい。二 わたしが鬼界が島に渡ったのは、治承三年五月の末、ある曇った午過ぎです。これは琵琶法師も・・・ 芥川竜之介 「俊寛」
・・・そして仏蘭西から輸入されたと思われる精巧な頸飾りを、美しい金象眼のしてある青銅の箱から取出して、クララの頸に巻こうとした。上品で端麗な若い青年の肉体が近寄るに従って、クララは甘い苦痛を胸に感じた。青年が近寄るなと思うとクララはもう上気して軽・・・ 有島武郎 「クララの出家」
・・・別室にて哄笑の声、やがて一同飾りを終わって棺をかついで登場。花田 早く早く……もうやってくるぞ。棺のこっちにこの椅子をおいて……これをここに、おい青島……それをそっちにやってくれ……おいみんな手伝えな……一時間の後には俺たちはしこ・・・ 有島武郎 「ドモ又の死」
・・・表飾りの景気から推せば、場内の広さも、一軒隣のアラビヤ式と銘打った競馬ぐらいはあろうと思うのに、筵囲いの廂合の路地へ入ったように狭くるしく薄暗い。 正面を逆に、背後向きに見物を立たせる寸法、舞台、というのが、新筵二三枚。 前に青竹の・・・ 泉鏡花 「革鞄の怪」
・・・正月飾りに、魚河岸に三個よりなかったという二尺六寸の海老を、緋縅の鎧のごとく、黒松の樽に縅した一騎駈の商売では軍が危い。家の業が立ちにくい。がらりと気を替えて、こうべ肉のすき焼、ばた焼、お望み次第に客を呼んで、抱一上人の夕顔を石燈籠の灯でほ・・・ 泉鏡花 「燈明之巻」
・・・ 家は古いが、細君の方の親譲りで、二階の飾りなども可なり揃っていた。友人の今の身分から見ると、家賃がいらないだけに、どこか楽に見えるところもあった。夫婦に子供二人の活しだ。「あす君は帰るんや。なア、僕は役場の書記でくたばるんや。もう・・・ 岩野泡鳴 「戦話」
・・・その中で沼南夫人は百舌や鴉の中のインコのように美しく飾り立てて脂粉と色彩の空気を漂わしていた。 この五色で満身を飾り立ったインコ夫人が後に沼南の外遊不在中、沼南の名誉に泥を塗ったのは当時の新聞の三面種ともなったので誰も知ってる。今日これ・・・ 内田魯庵 「三十年前の島田沼南」
・・・そして、ある飾り屋の前を通りかかりましたときに、その店さきにすわっていた主人にこの石を見てもらいました。主人は、眼鏡をかけて、よく石を見ていましたが、「これは珍しい石だ。」といって、どうか売ってくれないかと頼みました。少年は、石よりもっ・・・ 小川未明 「石をのせた車」
・・・また、その宝石を金にしなくても、娘のくび飾りとしたら、どんなに美しく輝いて娘の心を喜ばせるであろうと思いました。 宝石商は、これよりほかにお礼のしかたはないと考えたのです。彼は、月が空の上でいったことを思い出しました。「なんにしても・・・ 小川未明 「宝石商」
出典:青空文庫