・・・僕の鑑定は誤らんさ」 「僕は性質だと思うがね」 「いや、病気ですよ、少し海岸にでも行っていい空気でも吸って、節慾しなければいかんと思う」 「だって、あまりおかしい、それも十八、九とか二十二、三とかなら、そういうこともあるかもしれ・・・ 田山花袋 「少女病」
・・・ この二種の糞を拾って行って老測夫に鑑定してもらったらどちらもうさぎの糞で、小さいのは子うさぎ、大きいのは親うさぎのだという。さすがに父だか母だかは糞ではわからないらしい。このうさぎを捕獲すればテント内の晩餐をにぎわすことができるがなか・・・ 寺田寅彦 「小浅間」
・・・被告に不利な証人だけを選りぬいて登場させる、弁護士にはなるべく口が利けないようにするが、但し後の伏線になるようにアパートの時計が二十分進んでいたというアパート掃除婦の新証言をつかまえさせて後に警察医の鑑定と対照してアリバイを構成する準備をし・・・ 寺田寅彦 「初冬の日記から」
・・・電気窃取罪の鑑定人として物理学者が法廷に立った事もある。二十世紀の今日においては電気の疑問が電子に移った。電子は連続的のものでなくて粒から成り立っている。一電子の有する電気以下の少量の電気はどこにも得る事が出来ぬ。あらゆる電気はこの微粒の整・・・ 寺田寅彦 「物質とエネルギー」
・・・よくは解らねえが、まあそうだろうと云う皆さんの鑑定だ。 忰の体は、その時錨にかかって挙ったにゃ揚ったが、もう駄目だった。秋山さんの方は、それから大分日数がかかった。これは相も悉皆崩れていたという話でね。」 爺さんはそこまで話して来る・・・ 徳田秋声 「躯」
・・・偃蹇として澗底に嘯く松が枝には舞い寄る路のとてもなければ、白き胡蝶は薄き翼を収めて身動きもせぬ。「無心ながら宿貸す人に申す」とややありてランスロットがいう。「明日と定まる仕合の催しに、後れて乗り込む我の、何の誰よと人に知らるるは興なし。・・・ 夏目漱石 「薤露行」
・・・そうしてその幾分は学問の結果自らここに至ったものと鑑定した。また幾分は学問と反対の方面、すなわち俗に云う苦労をして、野暮を洗い落として、そうして再び野暮に安住しているところから起ったものと判断した。 そのうち、君は池辺君と露西亜の政党談・・・ 夏目漱石 「長谷川君と余」
・・・ただ形式ばかりの話ではなはだつまらないが、各自この形式を実地にあてはめて見たらいろいろな鑑定ができるだろうと思う。 競争はとうてい免がれない。また競争がなければ作物は進歩しない。今日の作物がこれまで進歩したのは作家の天分にもよるだろうけ・・・ 夏目漱石 「文壇の趨勢」
・・・ それはとにかく、私の経験したような煩悶があなたがたの場合にもしばしば起るに違いないと私は鑑定しているのですが、どうでしょうか。もしそうだとすると、何かに打ち当るまで行くという事は、学問をする人、教育を受ける人が、生涯の仕事としても、あ・・・ 夏目漱石 「私の個人主義」
・・・無学の蛮民等が、其目に触れ心に感ずる所を何の根拠もなく二様に区別して、之に附するに漠然たる陰陽の名を以てしたるまでのことにして、人間の男女も端なく其名籍の中に計えられ、男は陽性、女は陰性と、勝手次第に鑑定せられたるのみ。其趣は西洋の文典書中・・・ 福沢諭吉 「女大学評論」
出典:青空文庫