・・・身は、傅の大納言藤原道綱の子と生れて、天台座主慈恵大僧正の弟子となったが、三業も修せず、五戒も持した事はない。いや寧ろ「天が下のいろごのみ」と云う、Dandy の階級に属するような、生活さえもつづけている。が、不思議にも、そう云う生活のあい・・・ 芥川竜之介 「道祖問答」
・・・政元の魔法は成就したか否か知らず、永い月日を倦まず怠らずに、今日も如法に本尊を安置し、法壇を厳飾し、先ず一身の垢を去り穢を除かんとして浴室に入った。三業純浄は何の修法にも通有の事である。今は言葉をも発せず、言わんともせず、意を動かしもせず、・・・ 幸田露伴 「魔法修行者」
・・・が、そのやりかたは、古典作家、たとえばドストイェフスキーなどが癲癇という独特な病気をもちながら、彼の生きた時代のロシアの歴史の制約性と、自身の限界性によって描いた作品をそれなり随喜鑽仰することではない。彼の芸術的現実に現れている深刻な矛盾に・・・ 宮本百合子 「新年号の『文学評論』その他」
・・・ 先だって三綱橋のお祝いのときにも、佐渡の御隠居があんなにわいわい云ったって、やはり寄附金が少なかったから、見たことか、ああやって私よりは下座へ据えられて、夜のお振舞いにだって呼ばれはしない。 町会議員を息子に持っていると威張ったと・・・ 宮本百合子 「禰宜様宮田」
出典:青空文庫