・・・あなたは一人の母として、三人の小さい者たちとともに宵に寝、早朝におきつつ、童話・神話の世界から漸次より社会的な主題へと発展されました。この点も、婦人作家として、特徴的な経歴です。日本の社会的事情は、あなたのような程度の教養的環境と理解との中・・・ 宮本百合子 「含蓄ある歳月」
・・・彼の帝国博物館総長図書頭という官職は果して彼の文学的達成にプラスとなっているのみであろうか。伝記を読むと彼はその官職に就いて辞令をうけた日、従来一個の文学者としての立場からその学芸欄に関係を持っていた諸新聞と、改めて関係を断っている。このよ・・・ 宮本百合子 「今日の文学の鳥瞰図」
・・・ 南原東大総長がワシントンの会議で、「民族とその文化の独立のためには、世界平和が確立されなければならず、そのために役立つ平和な日本の政治的独立が必要である」といったことは、日本人の真情を告げるものであるとして内外からうけとられている。・・・ 宮本百合子 「しようがない、だろうか?」
・・・だが、私たちはシューマンの荘重な一つの歌曲を思いおこさずにはいられない。その歌はうたっている。「私は、悲しまない」と。先にゆく人影がないのならば、まずその道を行った人々によって伝統が始められたことを知らなければならない。日本の人民のための文・・・ 宮本百合子 「政治と作家の現実」
・・・常磐木があるので黒と白の配色。荘重 山と峡谷 ○信州の女○眼比較的大 二重瞼で、きっとしたような力あり。野性的の感○蚕種寒心太製造 隣室の話 男、中年以上姉さんという女 もっと若い女・・・ 宮本百合子 「一九二七年春より」
・・・3、南原総長の抗議を支持します。4、南原氏を抑えても、生きている人間の理性と税をはらって役人を生活させている人民の判断はころせません。〔一九五〇年八月〕 宮本百合子 「戦争・平和・曲学阿世」
・・・ 二日目の通夜が、徐々朝になりかけて来ると、私は今日限りの別れが云いようなく惜まれて来た。早朝の寒い空気の中で御蝋燭を代え、暫く棺を見守り、父の処へ行った。私は疲れていたので、桐ケ谷には行かない予定に成っていたのだ。私は父に自分も先方ま・・・ 宮本百合子 「祖母のために」
・・・やはり何度でも事務所でと答え、後年は、そういう習慣が世間一般にも少なくなったので、早朝のお客様との押し問答が稀れになりました。 夕刻事務所から早く帰った日には、皆でテーブルを囲んで夕飯をたべ、後は談笑したり、音楽をきいたり、興に乗じると・・・ 宮本百合子 「父の手帳」
・・・ バルザックは、ユーゴオのようにギリシャ悲劇の教養を土台にして、その作品に美と獣性、淫蕩と清純な愛、我慾と献身という風な二元的な対位法を使い、ロマンティックな荘重さ、熱烈さ、高揚で、文体を整えることも出来なかった。バルザックはこれらの輝・・・ 宮本百合子 「バルザックに対する評価」
・・・大抵早朝上野についた。そこから札を買って乗る人力車で家まで来る。その知らせで母が驚いて起きて来、祖母に挨拶がすむと、「一寸電報でも前もって下さればようございましたのに、いつも不意でお迎えも出ません」とやや気むずかしげにいう。祖母は、・・・ 宮本百合子 「百銭」
出典:青空文庫