・・・其内外の趣意を濫用して、男子の戸外に奔走するは実業経営社会交際の為めのみに非ず、其経営交際を名にして酒を飲み花柳に戯るゝ者こそ多けれ。朝野の貴顕紳士と称する俗輩が、何々の集会宴会と唱えて相会するは、果して実際の議事、真実の交際の為めに必要な・・・ 福沢諭吉 「女大学評論」
・・・区々たる政府の政に熱中奔走して、自家の領分はこれを放却して忘れたるが如し。内を外にするというべきか、外を内にするというべきか、いずれにも本気の沙汰とは認め難し。政の字の広き意味にしたがえば、人民の政事には際限あるべからず。これを放却して誰に・・・ 福沢諭吉 「学者安心論」
・・・ わずかに医学の初歩を学び得るときは、あるいは官途に奉職し、あるいは開業して病家に奔走し、奉職、開業、必ずしも医士の本意に非ざるも、糊口の道なきをいかんせん。口を糊せんとすれば、学を脩むるの閑なし、学を脩めんとすれば、口を糊するを得ず。・・・ 福沢諭吉 「学問の独立」
・・・商売の景気を探らんために奔走する者は多けれども、子を育するの良法を求めんためにとて、百里の路を往来し、十円の金を費やしたる者あるを聞かず。旅費の多き旅行なれば、千里の路も即日の支度にて出立すれども、子を育するに不便利なりとて、一夕の思案を費・・・ 福沢諭吉 「教育の事」
・・・前にいえる如く、少年輩がややもすれば経世の議論を吐き、あるいは流行の政談に奔走して、無益に心身を労し、はなはだしきは国安妨害の弊に陥るが如きは、元とその輩の無勘弁なるがためなり。その無勘弁の原因は何ぞや。真成の経世論を知らざるがためなり。詭・・・ 福沢諭吉 「経世の学、また講究すべし」
・・・ 一九三三年以後のかしましく苦しい転向の問題、その問題がおこるような社会的心理を根底にもって、社会主義リアリズムの課題を、超階級的なリアリズムの創作方法として日本に紹介しようとする一部の人々の奔走。一九三四年には「非常時」という言葉が用・・・ 宮本百合子 「あとがき(『宮本百合子選集』第十巻)」
・・・ 維新の風雲の間を奔走した女のひとたちはもとより少くなくて、それらの婦人たちは歴史の波瀾のうちに生死をも賭したのであったが、総ての時代を通じて印象を辿ってみると、日本の婦人一般にとって政治的な活動をする婦人は、すぐ一種の女傑になってしま・・・ 宮本百合子 「女性の歴史の七十四年」
・・・題材から云えば、そのまま一層ひろく、ひろくと拡がってゆき、拡りかたは如何にも惶しかったが、程なくその奔走の姿も新しい看察を伴ってみられるようになり、現在ではあれこれ表面的な題材に拘泥せず、今日の荒い現実のなかへ作家は身ぐるみとびこんで描けと・・・ 宮本百合子 「人生の共感」
・・・、しかも時々バルザックは一八二五年の破局にもこりず熱病にかかったように大仕掛の企業欲にとりつかれ、サルジニアの銀鉱採掘事業や、或る地勢を利用して十万のパイナップル栽培計画を立て、新式製紙術の研究にまで奔走したのである。実にバルザックの生活は・・・ 宮本百合子 「バルザックに対する評価」
・・・父はこれまで選挙について奔走したことがない。万民の志を遂げしむる政治のために身命を賭して努力するような志士を選挙しようと骨折ったこともない。そうすると父も不忠であった。役に立つことを実行しようとするならば、まず第一にこの点において忠義をつく・・・ 和辻哲郎 「蝸牛の角」
出典:青空文庫