・・・踊り場でピストルをひねくり回し、それを取り上げられて後にまた第二のピストルをかくしに探るところなどは巧みに観客を掌上に翻弄しているが、ここにも見方によればかなりに忠実な真実の描写があり解剖がありデモンストラチオンがある。やはり一つのおもしろ・・・ 寺田寅彦 「映画雑感(2[#「2」はローマ数字、1-13-22])」
・・・各種物質の出す光のスペクトルの研究から原子内における電子の排列を探るような有様である。 電子が一定量の陰電気を帯びている事、その質量が水素原子の質量のおよそ千八百分の一に当る事も種々の方面から推定される。かくのごとき電子の性質が次第に闡・・・ 寺田寅彦 「物質とエネルギー」
・・・之を看てよろこぶのは奇中の奇を探るもの。世には風流を解しないものも往々この奇を知る。と言出したので、一同おぼえず笑って座を立った。昭和二年六月草 永井荷風 「百花園」
・・・瞽女はどこまでもあぶなげに両方の手を先へ出して足の底で探るようにして人々の間を抜けようとする。悪戯な聞手はわざと動かないで彼の前を塞ごうとする。憫な瞽女は倒れ相にしては徐に歩を運ぶ。体がへなへなとして見える。大勢はそこここから仮声を出して揶・・・ 長塚節 「太十と其犬」
・・・真を発揮すると云うともったいない言葉でありますが、まず彼らの職業の本分を云うと、もっとも下劣な意味において真を探ると申しても差支ないでしょう。それで彼らの職務にかかった有様を見ると一人前の人間じゃありません。道徳もなければ美感もない。荘厳の・・・ 夏目漱石 「文芸の哲学的基礎」
・・・と頭の奧を探るとぺらぺらと黄色なが見える。「火事だ!」とウィリアムは思わず叫ぶ。火事は構わぬが今心の眼に思い浮べたの中にはクララの髪の毛が漾っている。何故あの火の中へ飛び込んで同じ所で死ななかったのかとウィリアムは舌打ちをする。「盾の仕業だ・・・ 夏目漱石 「幻影の盾」
・・・の旧跡を探るというので「ストラトフォドオンアヴォン」と云う長い名の所へ行かれた。跡は妻君の妹と下女のペンと吾輩と三人である。 朝目がさめると「シャッター」の隙間から朝日がさし込んで眩いくらいである。これは寝過したかと思って枕の下から例の・・・ 夏目漱石 「倫敦消息」
・・・それらの話や会話は、耳の聴覚で聞くよりは、何かの或る柔らかい触覚で、手触りに意味を探るというような趣きだった。とりわけ女の人の声には、どこか皮膚の表面を撫でるような、甘美でうっとりとした魅力があった。すべての物象と人物とが、影のように往来し・・・ 萩原朔太郎 「猫町」
・・・始末はしばらくさしおき、これを公に論じても、税の収納、取引についての公事訴訟、物産の取調べ、商売工業の盛衰等を検査して、その有様を知らんとするにも、人民の間に帳合法のたしかなる者あらざれば、暗夜に物を探るが如くにして、これに寄つくべき方便な・・・ 福沢諭吉 「小学教育の事」
・・・箱根の関はいずちなりけんと思うものから問うに人なく探るに跡なし。これらや歌人の歌枕なるべきとて 関守のまねくやそれと来て見れば 尾花が末に風わたるなり 薄の句を得たり。 大方はすゝきなりけり秋の山 ・・・ 正岡子規 「旅の旅の旅」
出典:青空文庫