・・・紺と白茶と格子になった炬燵蒲団の上には、端唄本が二三冊ひろげられて頸に鈴をさげた小さな白猫がその側に香箱をつくっている。猫が身うごきをするたびに、頸の鈴がきこえるか、きこえぬかわからぬほどかすかな音をたてる。房さんは禿頭を柔らかな猫の毛に触・・・ 芥川竜之介 「老年」
・・・ と見ると、藤紫に白茶の帯して、白綾の衣紋を襲ねた、黒髪の艶かなるに、鼈甲の中指ばかり、ずぶりと通した気高き簾中。立花は品位に打たれて思わず頭が下ったのである。 ものの情深く優しき声して、「待遠かったでしょうね。」 一言あた・・・ 泉鏡花 「伊勢之巻」
・・・袖は涙に濡れて、白茶地に牛房縞の裏柳葉色を曇らせている。島田髷はまったく根が抜け、藤紫のなまこの半掛けは脱れて、枕は不用もののように突き出されていた。 善吉はややしばらく瞬きもせず吉里を見つめた。 長鳴するがごとき上野の汽車の汽笛は・・・ 広津柳浪 「今戸心中」
・・・御まきさんのうしろに中振袖の絽の着物に厚板の白茶の帯を千鳥にむすんで唐人まげのあたまにつまみ細工の花ぐしを一っぱいさしてまっしろな御化粧に紅までさした御ムスメがだまって私のかわった不ぞうさのあたまを一生懸命に見て居た。その目つきと口元を見て・・・ 宮本百合子 「つぼみ」
出典:青空文庫