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・・・私は昔から人の反駁なぞは余り気に掛けない方で、大抵は雲煙過眼してしまうし、鴎外の気質はおおよそ呑込んでるから、威丈高に何をいおうと格別気にも留めなかったが、誰だか鴎外に注意したものがあったと見えて、その後偶然フラリと鴎外を尋ねると、私の顔を・・・
内田魯庵
「鴎外博士の追憶」
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汽笛一声京城を後にして五十三亭一日に見尽すとも水村山郭の絶風光は雲煙過眼よりも脆く写真屋の看板に名所古跡を見るよりもなおはかなく一瞥の後また跡かたを留めず。誰かはこれを指して旅という。かかる旅は夢と異なるなきなり。出ずるに・・・
正岡子規
「旅の旅の旅」