・・・ 日本人の精神生活の諸現象の中で、何よりも明瞭に、日本の自然、日本人の自然観、あるいは日本の自然と人とを引きくるめた一つの全機的な有機体の諸現象を要約し、またそれを支配する諸方則を記録したと見られるものは日本の文学や諸芸術であろう。・・・ 寺田寅彦 「日本人の自然観」
・・・『江頭百詠』は静軒が天保八年『江戸繁昌記』のために罪を獲て江戸払となってから諸方に流浪し、十三年の後隅田川のほとりなる知人某氏の別荘に始めておちつく事を得た時、日々見る所の江上の風光を吟じたもので、嘉永二年に刊刻せられた一冊子である。『・・・ 永井荷風 「向嶋」
・・・此校を出て、大学を出て、諸方を迂路ついている時に教えたのが、此処にいる速水君であります。速水君を教える時分は熊本で教員生活をしておった時で漂泊生でありました。速水君を教えていた時分は偉くなかった、あるいは偉い事を知らなかったか、どっちかでし・・・ 夏目漱石 「模倣と独立」
・・・から自身の容態を述ぶるの法を知らず、其尋問に答うるにも羞ずるが如く恐るゝが如くにして、病症発作の前後を錯雑し、寒温痛痒の軽重を明言する能わずして、無益に診察の時を費すのみか、其医師は遂に要領を得ずして処方に当惑することありと言う。言語を慎み・・・ 福沢諭吉 「女大学評論」
・・・実際には行われ難き事なれども、もしも諸方に行わるる政談演説を聴きて、その論勢の寛猛粗密を統計表につくりて見るべきものならば、そのいよいよ粗暴にして言論の無稽なる割合にしたがいて、その演説者もいよいよ不学なりとの事実を発明することあるべし。他・・・ 福沢諭吉 「経世の学、また講究すべし」
・・・をもってするのみならず、患者の平生に持張して徐々に用うべき肝油・鉄剤をも、その処方を改めて鎮痛即効の物にかえんとするときは、強壮滋潤の目的を達すること能わずして、かえって鎮痛療法の過激なるに失し、全体の生力を損ずることあるべし。 ゆえに・・・ 福沢諭吉 「政事と教育と分離すべし」
・・・ちゃんと処方通りやればうまく行ったんだ。」「今日は。」農民三「先生、あの薬わがなぃ。さっぱり稲枯れるもの。」爾薩待「いや、それはね、今も言ってたんだが、噴霧器を使わずに、この日中やったのがいけなかったのだ。」農民三「・・・ 宮沢賢治 「植物医師」
・・・又異教派の方にも大分諸方から鉄道などでお出でになった方もあるようでありますが鉄道で一番自然なこと則ちなるべく人力を加えないようにしまするならば衝突や脱線や人を轢いたりするなどがいいようであります。そんならそれでいいではないかポイントマンだの・・・ 宮沢賢治 「ビジテリアン大祭」
・・・慶応に入院していた間に眼の検査をしてもらったところ、私の眼は右と左とで大変度がちがっているので、今かけている眼鏡より度はちがえられないが、瞳孔距離がちがうというので処方を書いて貰っていた、それをやっとこのごろ、今日、なおしに出かけたのです。・・・ 宮本百合子 「獄中への手紙」
・・・スタンダリアンであるこの作家の「私の処方箋」は、きょうのロマネスクをとなえる日本の作家が、ラディゲだのラファイエット夫人だの、その他の、下じきをもっていて、その上に処方した作品をつくり出していること、或は歴史性ぬきの下じきを使用することをあ・・・ 宮本百合子 「「下じき」の問題」
出典:青空文庫