出典:青空文庫
・・・こんどは、黒のラシャ地を敬遠して、コバルト色のセル地を選び、それでもって再び海軍士官の外套を試みました。乾坤一擲の意気でありました。襟は、ぐっと小さく、全体を更に細めに華奢に、胴のくびれは痛いほど、きゅっと締めて、その外套を着るときには、少・・・ 太宰治 「おしゃれ童子」
・・・ 主人公の老富豪が取引所の柱の陰に立って乾坤一擲の大賭博を進行させている最中に、従僕相手に五十銭玉一つのかけをするくだりがある。そのかけにも老主人が勝ってそうしてすまして相手の銭をさらって、さて悠々と強敵と手詰めの談判に出かけるところに・・・ 寺田寅彦 「映画雑感(4[#「4」はローマ数字、1-13-24])」
・・・ 臆病者の常として自分もしばしば高い所から飛びおりることを想像してみることがある。乾坤一擲という言葉はこんな場合に使ってはいけないだろうが、自分にはそういう言葉が適切に思い出される。飛びおりてしまえば自分にはその建物もその所有者も、国土・・・ 寺田寅彦 「LIBER STUDIORUM」
・・・言をかえていえば、それ等社会学、経済学的原則が実行に移されようとする時、乾坤一擲、新たな生命を以て、しんからうまれ変らなければならない根性が、人間の、人生に向かう態度のうちにあるのではないだろうか。その根性がある為に、時代から時代へと、今日・・・ 宮本百合子 「男…は疲れている」