出典:青空文庫
・・・が、我々人間の心はこういう危機一髪の際にも途方もないことを考えるものです。僕は「あっ」と思う拍子にあの上高地の温泉宿のそばに「河童橋」という橋があるのを思い出しました。それから、――それから先のことは覚えていません。僕はただ目の前に稲妻に似・・・ 芥川竜之介 「河童」
・・・危険きわまる鼻。危機一髪、団子鼻に墮そうとするのを鼻のわきの深い皺がそれを助けた。まったくねえ。レニエはうまいことを言う。眉毛は太く短くまっ黒で、おどおどした両の小さい眼を被いかくすほどもじゃもじゃ繁茂していやがる。額はあくまでもせまく皺が・・・ 太宰治 「ダス・ゲマイネ」
・・・心の内は生死の境だ。危機一髪である。 姿を消した自分の着物が、どんなところへ持ち込まれているのか、少しずつ節子にもわかって来た。質屋というものの存在、機構を知ったのだ。どうしてもその着物を母のお目に掛けなければならぬ窮地におちいった時に・・・ 太宰治 「花火」
・・・ 出征する年少の友人の旗に、男児畢生危機一髪、と書いてやりました。 忙、閑、ともに間一髪。 太宰治 「春」