出典:青空文庫
・・・ 実際我我の愛する女性は古往今来飽き飽きする程、素ばらしい心の持ち主である。のみならず彼女の服装とか、或は彼女の財産とか、或は又彼女の社会的地位とか、――それらも長所にならないことはない。更に甚しい場合を挙げれば、以前或名士に愛されたと云う・・・ 芥川竜之介 「侏儒の言葉」
・・・が、この大根気、大努力も決して算籌外には置かれないので、単にこの点だけでも『八犬伝』を古往今来の大作として馬琴の雄偉なる大手筆を推讃せざるを得ない。 殊に失明後の労作に到っては尋常芸術的精苦以外にいかなる障碍にも打ち勝ってますます精進し・・・ 内田魯庵 「八犬伝談余」
・・・ 不易流行や虚実の弁については古往今来諸家によって説き尽くされたことであって、今ここに敷衍すべき余地もないのであるが、要するにこれは俳諧には限らずあらゆるわが国の表現芸術に共通な指導原理であって、芸と学との間に分水嶺を画するものである。・・・ 寺田寅彦 「俳諧の本質的概論」
・・・湯に入って顫えたものは古往今来たくさんあるまいと思う。湯から出たら「公まず眠れ」と云う。若い坊さんが厚い蒲団を十二畳の部屋に担ぎ込む。「郡内か」と聞いたら「太織だ」と答えた。「公のために新調したのだ」と説明がある上は安心して、わがものと心得・・・ 夏目漱石 「京に着ける夕」
・・・ような定義はあれで差支ない、定義の便宜があって弊害のない結構なものですが、これは実世間に存在する円いものを説明すると云わんよりむしろ理想的に頭の中にある円というものをかく約束上とりきめたまでであるから古往今来変りっこないのでどこまでもこの定・・・ 夏目漱石 「現代日本の開化」
・・・ ――この猛烈な経験を嘗め得たものは古往今来ウィリアム一人である。 夏目漱石 「幻影の盾」
・・・かくのごときものは古往今来他にその例を見ず。理想的美 俳句の美あるいは分って実験的、理想的の二種となすべし。実験的と理想的との区別は俳句の性質においてすでにしかるものあり。この種の理想は人間の到底経験すべからざること、あるい・・・ 正岡子規 「俳人蕪村」