・・・科業は、いろは五十韻より用文章等の手習、九々の数、加減乗除、比例等の算術にいたり、句読は、府県名・国尽・翻訳の地理・窮理書・経済書の初歩等を授け、あるいは訳書の不足する所はしばらく漢書をもって補い、習字・算術・句読・暗誦、おのおの等を分ち、・・・ 福沢諭吉 「京都学校の記」
・・・尤も『浮雲』以前にも翻訳などはある。今もいったツルゲーネフの『ファーザース・エンド・チルドレン』の冒頭を、少々ばかり訳したことなどもあるが、坪内さんに見せたばかりで物にはならなかった。『浮雲』にはモデルがあったかというのか? それは無いじゃ・・・ 二葉亭四迷 「予が半生の懺悔」
翻訳は如何様にすべきものか、其の標準は人に依って、各異ろうから、もとより一概に云うことは出来ぬ。されば、自分は、自分が従来やって来た方法について述べることとする。 一体、欧文は唯だ読むと何でもないが、よく味うて見ると、・・・ 二葉亭四迷 「余が翻訳の標準」
・・・ハイネという人のですよ。翻訳ですけれども仲々よくできてるんです。」「まあ、お借りしていいんでしょうかしら。」「構いませんとも。どうかゆっくりごらんなすって。じゃ僕もう失礼します。はてな、何か云い残したことがあるようだ。」「お星さ・・・ 宮沢賢治 「土神ときつね」
・・・風呂に入りに来たまま泊り、翌日夜になって、翻訳のしかけがある机の前に戻る。そんな日もあった。そこだけ椅子のあるふき子の居間で暮すのだが、彼等は何とまとまった話がある訳でもなかった。ふき子が緑色の籐椅子の中で余念なく細かい手芸をする、間に、・・・ 宮本百合子 「明るい海浜」
・・・などは翻訳でひろくよまれている。マンには六人の子供たちがある。長女エリカ・マン。そのつぎのクラウス・マン。この人は反ナチ作家で、ヒトラーが政権を確立させてからはオランダで、『ザンムルング』という反ナチの文学雑誌を発行していた。ロシアの作曲家・・・ 宮本百合子 「明日の知性」
・・・次にここに補って置きたいのは、翻訳のみに従事していた思軒と、後れて製作を出した魯庵とだ。漢詩和歌の擬古の裡に新機軸を出したものは姑く言わぬ。凡そ此等の人々は、皆多少今の文壇の創建に先だって、生埋の運命に迫られたものだ。それは丁度雑りものの賤・・・ 森鴎外 「鴎外漁史とは誰ぞ」
・・・そこで翁は新しい翻訳書を幾らか見るようにしていた。素とフウフェランドは蘭訳の書を先輩の日本訳の書に引き較べて見たのであるが、新しい蘭書を得ることが容易くなかったのと、多くの障碍を凌いで横文の書を読もうとする程の気力がなかったのとの為めに、昔・・・ 森鴎外 「カズイスチカ」
・・・さらに純然たる幻想の物語を、すなわち雨月物語を、画に翻訳しようとする努力もある。たまたま我々の目前にあるものを描くとすれば、それは模様のごとく美化された掃きだめである。あるいは全然装飾化された菜園である。そこに現われたのは写実によって美を生・・・ 和辻哲郎 「院展遠望」
キェルケゴオルのドイツ訳全集は一九〇九年から一九一四年へかけて出版せられた。その以前にも前世紀の末八〇年代から九〇年代へかけて彼の著書はかなり翻訳せられたが、宗教的著作のほかは、かなり厳密を欠いたものであった。 彼に関する研究は、・・・ 和辻哲郎 「「ゼエレン・キェルケゴオル」序」
出典:青空文庫