・・・それを越すと隣国への近路ながら、人界との境を隔つ、自然のお関所のように土地の人は思うのである。 この辺からは、峰の松に遮られるから、その姿は見えぬ。最っと乾の位置で、町端の方へ退ると、近山の背後に海がありそうな雲を隔てて、山の形が歴然と・・・ 泉鏡花 「国貞えがく」
・・・停車場前の茶店も馴染と見えて、そこで、私のも一所に荷を預けて、それから出掛けたんですが――これがずッとそれ、昔の東海道、箱根のお関所を成りたけ早めに越して、臼ころばしから向う阪をさがりに、見ると、河原前の橋を掛けてこの三島の両側に、ちらちら・・・ 泉鏡花 「半島一奇抄」
・・・伊吹山はあたかもこの関所の番兵のようにそびえているわけである。大垣米原間の鉄道線路は、この顕著な「地殻の割れ目」を縫うて敷かれてある。 山の南側は、太古の大地変の痕跡を示して、山骨を露出し、急峻な姿をしているのであるが、大垣から見れば、・・・ 寺田寅彦 「伊吹山の句について」
・・・青年団の人達と警官の扱いでようやくこの時ならぬ関所を通り抜けて箱根町に入った。 さすがに山は山だけに風が強く、湖水には白波が立って、空には雲の往来が早い。遊覧船は寒そうだから割愛することにした。 ホテルの食堂へはいって見ると、すぐ向・・・ 寺田寅彦 「箱根熱海バス紀行」
・・・これだけの通行券を握って私は初老の関所を通過した。そしてすぐ眼の前にある厄年の坂を越えなければならなかった。 厄年というものはいつの世から称え出した事か私は知らない。どういう根拠に依ったものかも分らない。たぶんは多くの同種類の云い伝えと・・・ 寺田寅彦 「厄年と etc.」
・・・ 六 月花の定座の意義 連句の進行の途上ところどころに月や花のいわゆる定座が設定されていて、これらが一里塚のごとく、あるいは澪標のごとく、あるいは関所のごとく、また緑門のごとく樹立している。これは連句というものの・・・ 寺田寅彦 「連句雑俎」
・・・この小さな日本を六十幾つに劃って、ちょっと隣へ往くにも関所があり、税関があり、人間と人間の間には階級があり格式があり分限があり、法度でしばって、習慣で固めて、いやしくも新しいものは皆禁制、新しい事をするものは皆謀叛人であった時代を想像して御・・・ 徳冨蘆花 「謀叛論(草稿)」
・・・ 結局、今の横文帳合はなにほどに流行するも、早晩、いずれのところにか突当りて、上流と下流との関所を生ぜざるをえず。縦の帳合はその入門の路、たとい困難なるも、関所を生ずるの患なし。たとえば今、日本大政府の諸省に用うる十露盤も、寒村僻邑の小・・・ 福沢諭吉 「小学教育の事」
・・・なんぼ春だと云うて御主のはげはやっぱりかがやいてあるのに、口元に関所を置いてとび出すならずものは遠慮なくからめとる様に手はずをなされ――そう思わぬか?第三の精霊 思うも思わぬもわたしゃそんなひまをもたぬ、考えるにせわしいワ。考えれば考え・・・ 宮本百合子 「葦笛(一幕)」
・・・ヨーロッパ、アメリカの文化・芸術の純文化的、芸術的価値は、パリという関所を通過して、初めて存在を確実にされると思われた。同時に、世界の文化的商業の面から、パリで売れる、ということが一つの商品価値証明のようになった。ウィーンで有名だった藤田嗣・・・ 宮本百合子 「木の芽だち」
出典:青空文庫