・・・鬱散養生とあれば花見も宜し湯治も賛成なり、或は集会宴席の附合も自から利益なれども、其外出するや子供を家に残して夫婦の留守中、下女下男の預りにて、初生児は無理に牛乳に養わるゝと言う。恰も雇人に任せたる蚕の如し。其生育如何は自問して自答に難から・・・ 福沢諭吉 「新女大学」
・・・けれどもその都合にゆかず、予審が終ってから即ち目下養生をしているという次第です。お医者様は私の心臓について、極めて公平で自然な説明をされます。「これで持っている間持つでしょうとしか申上られませんね」と。至極尤もなので、私は笑い出し、心の中で・・・ 宮本百合子 「獄中への手紙」
・・・スエ子は母がなくなってから糖尿病がひどくなって来て、この頃はアコウディオンを中止で、食餌養生をして居ります。相当意志をつよくやっているのは感心ですが、可哀そうに。私は彼女の音楽について大した幻想は抱いて居りません。 これまでの手紙で忘れ・・・ 宮本百合子 「獄中への手紙」
・・・をよんでもわかるとおり、「ミッドウェイ洋上、五分間の手遅れが太平洋全海戦の運命を決した」と五分早かったらという調子で、海戦の状況がこまかく専門的に記されていることである。元海軍中将であるこの筆者は、その達筆な戦記のなかにきわめて効果的に自然・・・ 宮本百合子 「ことの真実」
・・・ 後継ぎになる筈の一彰さんという人は、大兵な男であったが、十六のとき、脚気を患った後の養生に祖母はその息子を一人で熱海の湯治にやった。そこでお酌なんかにとりまかれて、それがその人の一生の踏み出しを取り誤らせることになり、廃嫡となった。大・・・ 宮本百合子 「繻珍のズボン」
・・・「しっかり、養生しやれ。」 秋三は嘲弄した微笑を勘次に投げた。「ええか、頼んだぞ。」と彼は云うと、威勢好く表へ立った。 勘次は秋三の微笑から冷たい風のような寒さを感じた。彼は暫く庭の上を見詰めたまま動けなかった。「すまん・・・ 横光利一 「南北」
・・・彼らは青春期の不養生によって、人間としての素質を鞏固ならしめることができませんでした。頭と心臓がすぐに硬くなりました。人間の成長がすぐ止まりました。彼らの内に萌え出た多くの芽は芽の内に枯れてしまいました。そこへ行くと夏目先生はやはり偉かった・・・ 和辻哲郎 「すべての芽を培え」
出典:青空文庫