出典:青空文庫
・・・人間の精神の能動的な発動を希望する作家が今日現実に当面している困難の大さは、一朝一夕の解決を不可能と感じさせるものがある。暗く厚い壁にぶつかって撥ねかえった文学の姿において、深田久彌氏の「鎌倉夫人」があり、阿部知二氏の「幸福」があり、石坂洋・・・ 宮本百合子 「今日の文学の展望」
・・・ 私娼の問題は、一朝一夕のセンチメンタリズムでは解決し得ない程複雑な社会的経済的根拠をもっている。子女史がもし一人の心敏き母であるならば、不自然な現代社会機構の中に成長する我が息子が、若者になった或る日、何かのはずみにこの不幸不潔な場処・・・ 宮本百合子 「昨今の話題を」
・・・ 英国でさえ、殆ど百年に近い時日を費したこの問題が、そう一朝一夕に片づこうとは思いません。実際運動に携わっている婦人達も、これで失望したり、騒ぎ立てたりするよりは、もう少し根気よく、実力を蓄えつつ賢い忍耐で、人生の大局を見まもる訓練を得・・・ 宮本百合子 「参政取のけは当然」
・・・まずこの食糧の問題、労働賃金問題、インフレ問題は、一朝一夕に、てっとりばやい効果が示せないから、出来ることから早くやって、誰の目にも悪いとしか見えないところに掣肘を加えておくのは、賢明でしょう。闇の大親分が捕まった、料理店がしめられた、それ・・・ 宮本百合子 「社会と人間の成長」
・・・女優さんと云う職業の関係もあるかも知れないし、その場の空気で支配されたところもあるでしょうけれど、ああいう冷い固いその人のその芯を貫いているような人生態度は、一朝一夕のものでなくて、矢張り女が昔から金で支配され得るものであった社会関係をいま・・・ 宮本百合子 「女性の生活態度」
日本の人口は七千万といわれている。その中で青年はどれほどの数を占めているのであろうか。今日、日本に生きる私達は皆一かたならない困難を持っているし、一朝一夕に片づかない社会的課題を持っている。日本の民主化という窓は明日に向っ・・・ 宮本百合子 「青年の生きる道」
・・・ 抑々、産児制限などと云う問題は、総論として一朝一夕に可否を断定し得ないものではありますまいか。それを現在の社会状態に鑑みて是とする者、愛国主義、或は軍備主義の尊重から、国家滅亡論として極端に拒絶する者。又、実際、それに対する箇人の道徳・・・ 宮本百合子 「男女交際より家庭生活へ」
・・・ バックが中国を理解し、愛していることは一朝一夕のものではない。そこには彼女の父母が埋まっている。彼女の子供達は中国の乳母と中国の子供たちの間に育った。彼女の全家族の生命が銃弾におびやかされたことがある。バックは、いくつかの貴重な生命を・・・ 宮本百合子 「中国に於ける二人のアメリカ婦人」
・・・の中で云っているのは、決して一朝一夕の思いつきではないのである。 藤村の『若菜集』引きつづいて翌三十一年の春出版された『一葉舟』『夏草』、第四詩集である『落梅集』などが、当時の若い人々の感情をうごかし捉えた力というものは、今日私達の想像・・・ 宮本百合子 「藤村の文学にうつる自然」
・・・しかし、よりよい可能の発見のために試みられる努力にも、実に錯綜した条件が働きあっていて、多くの予想しない矛盾や錯誤がおこって、すべてのことは一朝一夕には解決しない。そうかといって、希望がないのかといえば決して希望は失われていない。歴史の消長・・・ 宮本百合子 「働く婦人の新しい年」