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・・・古人の作や一知半解ながらも多少窺った外国小説でも全幅を傾倒するほどの感に打たれるものには余り多く出会わなかったから、私の文学に対するその頃の直踏は余り高くはなかった。 然るに『罪と罰』を読んだ時、あたかも曠野に落雷に会うて眼眩めき耳聾い・・・
内田魯庵
「二葉亭余談」
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・・・俳諧は謡いものなりというはこの事である。一知半解の西洋人が芭蕉をオーレリアスやエピクテータスにたとえたりする誤謬の出発点の一つはここにもある。同じ誤謬に立脚した変態の俳句などは、自分の皮膚の黄色いことを忘れた日本人のむだな訓練によってゆがめ・・・
寺田寅彦
「俳諧の本質的概論」