出典:青空文庫
・・・しかもその謹厳なる事は一言一行の末にも及びたりき。例えば恒藤は寮雨をせず。寮雨とは夜間寄宿舎の窓より、勝手に小便を垂れ流す事なり。僕は時と場合とに応じ、寮雨位辞するものに非ず。僕問う。「君はなぜ寮雨をしない?」恒藤答う。「人にされたら僕が迷・・・ 芥川竜之介 「恒藤恭氏」
・・・ 先輩の一言一行も忘れられないかのように、次郎はそれを私に語ってみせた。 いよいよ次郎の家を離れて行く日も近づいた。次郎はその日を茶の間の縁先にある黒板の上に記しつけて見て、なんとなくなごりが惜しまるるというふうであった。やがて、荷・・・ 島崎藤村 「嵐」
・・・即ち家に居り家族相互いに親愛恭敬して人生の至情を尽し、一言一行、誠のほかなくしてその習慣を成し、発して戸外の働きに現われて公徳の美を円満ならしむるものなり。古人の言に、忠臣は孝子の門に出ずといいしも、決して偶然にあらず。忠は公徳にして孝は私・・・ 福沢諭吉 「日本男子論」