出典:青空文庫
・・・内蔵助は、不承不承に答えた。 その人に傲らない態度が、伝右衛門にとっては、物足りないと同時に、一層の奥床しさを感じさせたと見えて、今まで内蔵助の方を向いていた彼は、永年京都勤番をつとめていた小野寺十内の方へ向きを換えると、益、熱心に推服・・・ 芥川竜之介 「或日の大石内蔵助」
・・・――洋一は誰かに聞かされた、そんな話を思い出しながら、しばらくの間は不承不承に、一昨年ある呉服屋へ縁づいた、病気勝ちな姉の噂をしていた。「慎ちゃんの所はどうおしだえ? お父さんは知らせた方が好いとか云ってお出でだったけれど。」 その・・・ 芥川竜之介 「お律と子等と」
・・・そこでM・C・Cを銜えたまま、両手をズボンのポケットに入れて、不承不承に席を離れた。そうして蹌踉たる老紳士の後から、二列に並んでいるテエブルの間を、大股に戸口の方へ歩いて行った。後にはただ、白葡萄酒のコップとウイスキイのコップとが、白いテエ・・・ 芥川竜之介 「西郷隆盛」
・・・私はこの記者から前にも一二度不快な印象を受けた覚えがあるので、不承不承に返事をした。「傑作です。」「傑作――ですか。これは面白い。」 記者は腹を揺って笑った。その声に驚かされたのであろう。近くで画を見ていた二三人の見物が皆云い合・・・ 芥川竜之介 「沼地」
・・・そこで新蔵もやむを得ず足を止めて、不承不承に相手を見返りながら、うるさそうに「何だい。」と答えると、泰さんは急ぎ足に追いついて、「君は今、車へ乗って通った人の顔を見たかい。」と、妙な事を尋ねるのです。「見たよ。痩せた、黒い色眼鏡をかけている・・・ 芥川竜之介 「妖婆」
・・・また成程そう云う気が起りでも致しませんでしたら、昇る気づかいのない竜を待って、いかに不承不承とは申すものの、南大門の下に小一日も立って居る訳には参りますまい。「けれども猿沢の池は前の通り、漣も立てずに春の日ざしを照り返して居るばかりでご・・・ 芥川竜之介 「竜」
・・・ 男の子は、不承不承に首肯いた。「僕は、飲みませんよ。」熊本君は、またしても、つんと気取った。「アルコオルは、罪悪です。僕は、アカデミックな態度を、とろうと思います。」「誰も君に、」佐伯は、やや口を尖らせて言った。「飲めと言って・・・ 太宰治 「乞食学生」