出典:青空文庫
・・・嫌いなのは、黙阿彌張りか何かで、それでいて新作まがいの中途半端の芝居です。 活動写真も好きです。しかし網野さんほどではないかも知れません。網野さんの活動好きにはおどろきます。 わたくしは他にお能を好んで見ます。あの衣裳の色の配合なぞ・・・ 宮本百合子 「身辺打明けの記」
・・・ 日本の作家の事情は、少くともこれまでは、中途半端であった。一定の文学的力量は、比較的たやすく彼及び彼女たちを食わせるようになる。けれども、その食わせかたは、日本的水準で、謂わば、手から口へ、という状態からあまり遠くない。一人の作家が、・・・ 宮本百合子 「春桃」
・・・弱気な若いものが中途半端に萎縮し、すこし勝気な青年たちが、反抗から放蕩に陥ったりすることは理解される。自身にのしかかるそういう重荷の歴史性を、はっきり解剖し、根底から社会通念を人間が生きるに合理的な方面に導こうとする建設の道へ身を投じる者は・・・ 宮本百合子 「花のたより」
・・・「婦人雑誌に、何だか中途半端な小説をいくつか書いていたときがあった、あの一つだね」「そうなの」 原稿を床のそとの畳へ放り出すように置いた。「ほかの人達もみんな出したのか」「そうでしょうと思うわ」「そして、その本は出た・・・ 宮本百合子 「風知草」
・・・ 中途半端に蔕からくさって落ちた自由主義の歴史に煩わされて、日本のインテリゲンチアは、十九世紀初頭の政治的変転を経たフランスのインテリゲンチアとは同じでない。対立する力に対して、人間の理性の到達点を静にしかし強固に守りとおし、その任務を・・・ 宮本百合子 「冬を越す蕾」
・・・ところが大人になるにつれて人道主義のヤワイことが判って来た。中途半端な人道主義はイザと云う時、役に立たないと云うことを知ったところは犬養健の部分的な賢さだが、人道主義を清算して親父の秘書となって政友会に納まった所に、彼の決定的な階級性の暴露・・・ 宮本百合子 「ブルジョア作家のファッショ化に就て」
・・・は日本の婦人のための高等教育の中途半端さを、文化全般の低さからもたらされる一つの不幸として見るよりも、多くの良人が「完成品を自分の妻とするよりもどちらかといえばまだ未完成品を妻として、それを自分の好みによって、自分の好きなような女性に作り上・・・ 宮本百合子 「三つの「女大学」」
・・・ この頃真理運動ということを云い出して、都下の中途半端な学生などの間に或る人気をあつめはじめている友松円諦という坊さんは、文芸春秋の新年号に「凶作地の人々に与う」という題で一つの意見を公にしている。 友松は、東北地方の飢饉が今年には・・・ 宮本百合子 「村からの娘」
・・・そして、遊んでいてもいけないし、さりとてどう社会的に動くかも明瞭でない、中途半端な和服の日本女性の絵姿は、少し上ずったような黒い二つの眼を見開いて、立っている表紙が見られるようになった。 既成の婦人団体は「戦う日本の女性」の精神の方向を・・・ 宮本百合子 「私たちの建設」
・・・それが卑屈と妥協と中途半端とに慣れた世間の眼に珍しく見えたまでである。 しかし常識的という事が道義的鈍感を意味するならば、先生は常識的ではなかった。先生はいかなる場合にも第一義のものをごまかして通る事ができなかった。たとえ世間が普通の事・・・ 和辻哲郎 「夏目先生の追憶」