出典:青空文庫
・・・三 御釈迦様は極楽の蓮池のふちに立って、この一部始終をじっと見ていらっしゃいましたが、やがて陀多が血の池の底へ石のように沈んでしまいますと、悲しそうな御顔をなさりながら、またぶらぶら御歩きになり始めました。自分ばかり地獄から・・・ 芥川竜之介 「蜘蛛の糸」
・・・ ――――――――――――――――――――――――― 修理は、翌日、宇左衛門から、佐渡守の云い渡した一部始終を聞くと、忽ち顔を曇らせた。が、それぎりで、格別いつものように、とり上せる気色もない。宇左衛門は、気づか・・・ 芥川竜之介 「忠義」
・・・こうなるとお敏も絶体絶命ですから、今までは何事も宿命と覚悟をきめていたのが、万一新蔵の身の上に、取り返しのつかない事でも起っては大変と、とうとう男に一部始終を打ち明ける気になったのです。が、それも新蔵が委細を聞いた後になって、そう云う恐しい・・・ 芥川竜之介 「妖婆」
・・・われ、その一部始終を心の中に繰返しつつ、異国より移し植えたる、名も知らぬ草木の薫しき花を分けて、ほの暗き小路を歩み居しが、ふと眼を挙げて、行手を見れば、われを去る事十歩ならざるに、伴天連めきたる人影あり。その人、わが眼を挙ぐるより早く、風の・・・ 芥川竜之介 「るしへる」
・・・る少年は思い出したようにそれを取上げて、これさえあれば御殿の勘当も許されるからと喜んで妹と手をひきつれて御殿の方に走って行くのを、しっかり見届けた上で、燕はいい事をしたと思って王子の肩に飛び帰って来て一部始終の物語をしてあげますと、王子もた・・・ 有島武郎 「燕と王子」
・・・ 正に大審院に、高き天を頂いて、国家の法を裁すべき判事は、よく堪えてお幾の物語の、一部始終を聞き果てたが、渠は実際、事の本末を、冷かに判ずるよりも、お米が身に関する故をもって、むしろ情において激せざるを得なかったから、言下に打出して事理・・・ 泉鏡花 「政談十二社」
・・・ 人にも言わぬ積り積った苦労を、どんなに胸に蓄えておりましたか、その容体ではなかなか一通りではなかろうと思う一部始終を、悉しく申したのでありまする。 さっきから黙然として、ただ打頷いておりました小宮山は、何と思いましたか力強く、あた・・・ 泉鏡花 「湯女の魂」
・・・そして一部始終をお婆さんはお爺さんに話ますと、「それは、まさしく神様のお授け子だから、大事にして育てなければ罰が当る」と、お爺さんも申しました。 二人は、その赤ん坊を育てることにしました。その子は女の児であったのであります。そして胴・・・ 小川未明 「赤い蝋燭と人魚」
・・・そして、一部始終をおばあさんは、おじいさんに話しますと、「それは、まさしく神さまのお授け子だから、大事にして育てなければ罰が当たる。」と、おじいさんも申しました。 二人は、その赤ん坊を育てることにしました。その子は女の子であったので・・・ 小川未明 「赤いろうそくと人魚」
・・・彼はついに、一部始終のことをじいさんに打ち明けて、どうか許してくださいともうしました。 すると、じいさんの優しい顔は急にむずかしそうな顔つきに変わって、「なんでも人まねをしようとすると、そういう損をするもんだ。おまえの力を、おまえは・・・ 小川未明 「どこで笛吹く」