・・・絵で見た大将が持つ采配を略したような、何にするものだか、今もって解らない。が、町々辻々に、小児という小児が、皆おもちゃを持って、振ったり、廻したり、空を払いたりして飛廻った。半年ばかりですたれたが、一種の物妖と称えて可かろう。持たないと、生・・・ 泉鏡花 「夫人利生記」
・・・ずすまじとて、媼さんが曲った腰をむずむずと動かして、溝の上へ膝を摺出す、その効なく……博多の帯を引掴みながら、素見を追懸けた亭主が、値が出来ないで舌打をして引返す……煙草入に引懸っただぼ鯊を、鳥の毛の采配で釣ろうと構えて、ストンと外した玉屋・・・ 泉鏡花 「露肆」
・・・大勢の踊手が密集した方陣形に整列して白刃を舞わし、音楽に合せて白刃と紙の采配とを打合わせる。その度ごとに采配が切断されてその白い紙片が吹雪のように散乱する。音頭取が一つ拍子を狂わせるとたちまち怪我人が出来るそうである。 映画の立廻りの代・・・ 寺田寅彦 「雑記帳より(1[#「1」はローマ数字、1-13-21])」
・・・是れも所謂言葉の采配、又売物の掛直同様にして、斯くまでに厳しく警めたらば少しは注意する者もあらんなど、浅墓なる教訓なれば夫れまでのことなれども、真実真面目に古礼を守らしめんとするに於ては、唯表向の儀式のみに止まりて裏面に却て大なる不都合を生・・・ 福沢諭吉 「女大学評論」
・・・ このからくりに采配をふるったのは、ツァーの有名な警視総監である大官ポベドノスツェフであった。そして、この奸策を白日のもとに明かにしたのは、もちろんポベドノスツェフではなく、足をすくわれた後、立ち上ったロシアのマルキシストたちであった。・・・ 宮本百合子 「冬を越す蕾」
・・・おぬしに表門の采配を振らせるとは、林殿にしてはよく出来た」 数馬は耳をそばだてた。「なにこのたびのお役目は外記が申し上げて仰せつけられたのか」「そうじゃ。外記殿が殿様に言われた。数馬は御先代が出格のお取立てをなされたものじゃ。ご恩報・・・ 森鴎外 「阿部一族」
・・・はよき采配である。よき采配のもとはよき法度である。よき法度のもとは正直・慈悲・智慧である。これが軍法の原理なのである。そういう着眼であるから、信玄の一代記にしても、戦国武士の言行録にしても、道徳的訓戒としての色彩が非常に濃い。 ここには・・・ 和辻哲郎 「埋もれた日本」
出典:青空文庫