出典:青空文庫
・・・年若く身は痩せて心のままに風と来り風と去る漂遊の児であれば、もとより一攫千金を夢みてきたのではない。予はただこの北海の天地に充満する自由の空気を呼吸せんがために、津軽の海を越えた。自由の空気! 自由の空気さえ吸えば、身はたとえ枯野の草に犬の・・・ 石川啄木 「初めて見たる小樽」
・・・――そこで、心得のある、ここの主人をはじめ、いつもころがり込んでいる、なかまが二人、一人は検定試験を十年来落第の中老の才子で、近頃はただ一攫千金の投機を狙っています。一人は、今は小使を志願しても間に合わない、慢性の政治狂と、三個を、紳士、旦・・・ 泉鏡花 「木の子説法」
・・・……我人ともに年中螻では不可ません、一攫千金、お茶の子の朝飯前という……次は、」 と細字に認めた行燈をくるりと廻す。綱が禁札、ト捧げた体で、芳原被りの若いもの。別に絣の羽織を着たのが、板本を抱えて彳む。「諸人に好かれる法、嫌われぬ法・・・ 泉鏡花 「露肆」