出典:青空文庫
・・・けれども、とりかかるまえに、これは何故に今さららしくとりかかる値打ちがあるのか、それを四方八方から眺めて、まあ、まあ、ことごとしくとりかかるにも及ぶまいということに落ちついて、結局、何もしない」「それほどの心情をお持ちになりながら、なん・・・ 太宰治 「ダス・ゲマイネ」
・・・破られているのでございますから、いまさら都合がどうのこうのと、もったい振っても、それは噴飯ものでございましょうし、また、私のようなものでも顔を出して何やら文化に就いて一席うかがいますと、それでどうやら四方八方が円満に治るのだから是非どうぞ、・・・ 太宰治 「男女同権」
・・・の一件でね、あいつ大失敗をやらかしてね、誰かが、あいつをだまして、ほんものの貴婦人は、おしっこをする時、しゃがまないものだと教えたのですね、すると、あの馬鹿が、こっそり御不浄でためしてみて、いやもう、四方八方に飛散し、御不浄は海、しかもあと・・・ 太宰治 「眉山」
・・・悪の数々、目おおえども、耳ふさげども、壁のすきま、鉄格子の窓、四方八方よりひそひそ忍びいる様、春の風の如く、むしろ快し。院主の訓辞、かの説教強盗のそれより、少し声やさしく、温顔なるのみ。内容、もとより、底知れぬトリックの沼。しかも直接に、人・・・ 太宰治 「HUMAN LOST」
・・・それで四方八方良いことだらけになるのであるけれども、その秀才が夢中に奔走して、汗をダラダラ垂らしながら捜しているにもかかわらず、いわゆる職業というものがあまり無いようです。あまりどころかなかなか無い。今言う通り天下に職業の種類が何百種何千種・・・ 夏目漱石 「道楽と職業」
・・・○それで明治座へ行って、自分の枡へ這入ってみると、ただ四方八方ざわざわしていろいろな色彩が眼に映る感じが一番強かった。もっともこれは能とさほど性質において差違はないが、正面の舞台で女の生首を抱いたり箱へ入れたりしているのにその所作には一・・・ 夏目漱石 「明治座の所感を虚子君に問れて」
・・・と云いながら、四方八方から、飛びかかりましたが、何分とのさまがえるは三十がえる力あるのですし、くさりかたびらは着ていますし、それにあまがえるはみんな舶来ウェスキーでひょろひょろしてますから、片っぱしからストンストンと投げつけられました。おし・・・ 宮沢賢治 「カイロ団長」
・・・現代の生活は複雑で、幸福もそれをこわす条件も四方八方のつながりのうちに生かされて変化を受けつつあるのだから、今日私たちが、現実の前で膝をついた形でなく、現実の上に美しく健気に立った形としての幸福を獲ようとすれば、自分の生まれ合わせた社会と自・・・ 宮本百合子 「幸福の感覚」
・・・一般の世界情勢につれて、革命化しつつあるとはいえ婦人大衆は企業内にあるとないとにかかわらず四方八方から反動文化にからみつかれる危険にさらされているのだ。 日本プロレタリア作家同盟の各地方支部は全国にわたるプロレタリア文化・文学運動の名誉・・・ 宮本百合子 「国際無産婦人デーに際して」
・・・ つまり、私一人、というものの、社会における四方八方への繋りの問題である。体が丈夫で気丈で、人と人との調和もよく百人中の一人として、いい職業につけた人があったとする。その人は、自力、自分の実力ということをふたたびうれしく認めるであろう。・・・ 宮本百合子 「世界の寡婦」