出典:青空文庫
・・・それでも、一度だけだが、板の間のことをその場で指摘されると、何ともいい訳けのない困り方でいきなり平身低頭して詫びを入れ、ほうほうの体で逃げ帰った借金取があったと、きまってあとでお辰の愚痴の相手は娘の蝶子であった。 そんな母親を蝶子はみっ・・・ 織田作之助 「夫婦善哉」
・・・と随分、思い切った強いことを言いましたので、ペテロは大あわてにあわて、ああ、ごめんなさい、それならば、私の足だけでなく、手も頭も思う存分に洗って下さい、と平身低頭して頼みいりましたので、私は思わず噴き出してしまい、ほかの弟子たちも、そっと微・・・ 太宰治 「駈込み訴え」
・・・かならず、厳罰に附し、おわびの万分の一、当方の誠意かっていただきたく、飛行郵便にて、玉稿の書留より一足さきに、額の滝、油汗ふきふき、平身低頭のおわび、以上の如くでございます。なお、寸志おしるしだけにても、御送り申そうかと考えましたが、これ又・・・ 太宰治 「虚構の春」
・・・という子供のイデオロギー的な言葉よりさきに、校長、教頭などが金持、地主、官吏の子供らばかりをチヤホヤし、その親に平身低頭し、自身の地位の安全のためにこびる日常の現実に対して素朴な、しかし正当な軽蔑と憤りとを感じることから始る例が多い。 ・・・ 宮本百合子 「一連の非プロレタリア的作品」
・・・ 斯う云って居る目には生活難を感じながら平身低頭して朝夕神に仕えて居なければならない貧しい神官のあわれさが、しみじみと浮び見えて居た。 世の中をあきらめながらあきらめきれない苦しさがあった。 けれ共M氏はかるく微笑みながら盛な男・・・ 宮本百合子 「旅へ出て」