出典:青空文庫
・・・すが、その円貨切り換えの大騒ぎがはじまって以来、私の働き振りに異様なハズミがついて、何でもかでも滅茶苦茶に働きたくなって、きのうよりは今日、きょうよりは明日と物凄い加速度を以て、ほとんど半狂乱みたいな獅子奮迅をつづけ、いよいよ切り換えの騒ぎ・・・ 太宰治 「トカトントン」
・・・そこに理想主義の獅子奮迅が在る。美しい無智が在る。私は、しばらく、この態度に拠ろうと思っている。この態度は、しばしば、盲目に似ている。時には、滑稽でさえある。けれども、私は、「あらまあ、しばらく。」なぞという挨拶にはじまる女人の実体を活写し・・・ 太宰治 「女人創造」
・・・満身の力を腕にこめて、押し寄せ渦巻き引きずる流れを、なんのこれしきと掻きわけ掻きわけ、めくらめっぽう獅子奮迅の人の子の姿には、神も哀れと思ったか、ついに憐愍を垂れてくれた。押し流されつつも、見事、対岸の樹木の幹に、すがりつく事が出来たのであ・・・ 太宰治 「走れメロス」
・・・とばかりに、人の心の奥底を、ただそれだけを相手に、鈍刀ながらも獅子奮迅した、とかいう話であるが、いまは、まるで、だめである。呆然としている。 ――山よりほかに、…… なぞという大時代的なばかな感慨にふけって、かすかに涙ぐんだりなんか・・・ 太宰治 「八十八夜」