出典:青空文庫
・・・ロマンチスト達が自らを高く持して、それから一刻も遠のくためには古代ギリシャの美術品の鑑賞へ熱中するばかりか、美を求めて遠くアフリカへまで旅立つことを辞さない間に、バルザックは金儲け、立身出世、瞞し合いのブルジョア社会の現実へ突ささって而もそ・・・ 宮本百合子 「バルザックに対する評価」
・・・ 治安維持法という全く権力擁護の悪法によって血ぬられた立身出世の階段を一段一段と経のぼった人間が人民の正義と自由に対して罪のない者であるということは、人間としての正義感が承知しません。こんにち、権力をもっている支配者たちの法律がそれをど・・・ 宮本百合子 「平和運動と文学者」
・・・ 女であれば、世間並に娘時代の修業をつんだら、親の社会的な位置にもふさわしい結婚をおとなしくうけいれて、良人をよく満足させる努力の余力でいくらかは自分も楽しませ、良人の立身出世をよろこび、身分相当の家庭生活をやってゆく、そういうものがも・・・ 宮本百合子 「ものわかりよさ」
・・・やや世故にたけたといわれる年頃では、そういう階級の狭い生活が多くの女の心に偏見と形式と家常茶飯への没頭、良人の世間並な立身出世に対する関心をだけを一杯にしていたであろう。荷風が、弱々しき気むずかしさでそれらの女の生活と内容に自身を無縁なもの・・・ 宮本百合子 「歴史の落穂」
・・・ 日本の資本主義が興隆期であった頃の立身出世が、今日ないのは分りきったことではないであろうか。現実に無くなってしまっているものとの漠然たる対比で、現在を下らながるのは、とことんのところにまだ矢張り昔の立身出世を心に置いているからである。・・・ 宮本百合子 「若き時代の道」
・・・いわゆる人物本位ということと将来の立身出世が同じ内容で、選択の標準となり得た時代も遠い過去にはあった。けれども今日の大多数の青年の苦しみは、明治時代の人物本位という目やすが自身の社会生活の生涯に当てはまらなくなっていることから湧いている。精・・・ 宮本百合子 「若き世代への恋愛論」