出典:青空文庫
・・・それから母は一心不乱に夫の無事を祈る。母の考えでは、夫が侍であるから、弓矢の神の八幡へ、こうやって是非ない願をかけたら、よもや聴かれぬ道理はなかろうと一図に思いつめている。 子供はよくこの鈴の音で眼を覚まして、四辺を見ると真暗だものだか・・・ 夏目漱石 「夢十夜」
・・・この間もニュースで、泥濘のなかを馬の口をとって一心不乱に前進している兵隊さんの顔を見て私は隆ちゃんのことを思いました。さぞ、こういう時もあるのだろうと思って。あなたの丈夫なのは分っているが、馬もどうぞ丈夫なように、と心から思います。お兄さん・・・ 宮本百合子 「二人の弟たちへのたより」
・・・一人のくりくり頭の男の子が、一心不乱に口を尖らせて切りぬきをやりはじめる。それを見ている私たちは、思わず自分たちまで口をとんがらしながら笑いを湛えて観ているのだが、子供の作業としてもまだそれが終りにも近づかないうち、従って、私たちの親愛な笑・・・ 宮本百合子 「「保姆」の印象」