出典:青空文庫
・・・誰でもある事実の記録をするには自然と自分でディテエルの取捨選択をしながら、書いてゆく。これはしないつもりでも、事実としてするのだから仕方がない。と云う意味は、それだけもう客観的の事実から遠ざかると云う事です。そうでしょう。だから一見当になり・・・ 芥川竜之介 「西郷隆盛」
・・・これは普通字句の簡潔とか用語の選択の妥当性によるものと解釈されるようであるが、しかしそれよりも根本的なことは、書く事の内容の取捨選択について積まれた修業の効果によるのではないかと思われる。俳句を作る場合のおもなる仕事は不用なものをきり捨て切・・・ 寺田寅彦 「俳句の精神」
・・・従って小説戯曲の材料は七分まで、徳義的批判に訴えて取捨選択せられるのであります。恋を描くにローマン主義の場合では途中で、単に顔を合せたばかりで直ぐに恋情が成立ち、このために盲目になったり、跛足になったりして、煩悶懊悩するというようなことにな・・・ 夏目漱石 「教育と文芸」
・・・が、芸術化の過程が一条件としてもっている諸現象の評価、そのより特徴的な方向の取捨選択の必要を、「現実を歪曲する」権利という表現で強調していることは、理解の混乱をひきおこすと思う。更に、「ルポルタージュなるものは『物が人をうごかす』という唯物・・・ 宮本百合子 「明日の言葉」