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・・・更に又杯盤狼藉の間に、従容迫らない態度などは何とはなしに心憎いものがある。いつも人生を薔薇色の光りに仄めかそうとする浪曼主義。その誘惑を意識しつつ、しかもその誘惑に抵抗しない、たとえば中途まで送って来た妓と、「何事かひそひそ囁き交したる後」・・・
芥川竜之介
「久米正雄」
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・・・ 勝治の部屋は、それこそ杯盤狼藉だった。隅に男がひとりいた。節子は立ちすくんだ。「メッチェンの来訪です。わが愛人。」と勝治はその男に言った。「妹さんだろう?」相手の男は勘がよかった。有原である。「僕は、失敬しよう。」「いいじ・・・
太宰治
「花火」