出典:青空文庫
・・・Kは、良妻賢母で、それから、僕は不良少年、ひとの屑だ。」「あなただけ、」言いかけたとき、女中がミルクを持って来る。「あ、どうも。」「くるしむことは、自由だ。」私は、熱いミルクを啜りながら、「よろこぶことも、そのひとの自由だ。」「・・・ 太宰治 「秋風記」
・・・昨今の婦人雑誌の内容を見ても分る通り、婦人の天職を家庭の中にあって良妻賢母であること、やりくりのうまい主婦であることに認める傾向は、近頃一層いちじるしくなって来ている。婦人の幸福は家庭にあり、家庭において婦人が婦徳を全うすることこそ日本文化・・・ 宮本百合子 「今日の文化の諸問題」
・・・教育家の一部が易々諾々として教案を草し、その教案によって百年一日の如く恐ろしい厭怠の裡に所謂良妻賢母を説いて居る、その偽瞞の現状維持は、強いても日本女性を楽観して居ります。然し、其は軈て彼等のギロチンになりますでしょう。若い女性、従来若いと・・・ 宮本百合子 「C先生への手紙」
・・・日本では良妻賢母という言葉によっては既に新しい刺戟を与えられないが、服飾や愛の技巧の研究に女が公然と物を云うようになると同時に、そういう趣味的な面を通じて、案外な程度に、復古へ誘いこまれ、性的な交渉では女が受身という点が粉飾的に強調されてい・・・ 宮本百合子 「日本の秋色」