出典:青空文庫
・・・ それから四十九日が済んだという翌くる日の夕方前、――丁度また例の三百が来ていて、それがまだ二三度目かだったので、例の廻り冗い不得要領な空恍けた調子で、並べ立てていた処へ、丁度その小包が着いたのであった。「いや私も近頃は少し脳の加減を悪・・・ 葛西善蔵 「子をつれて」
・・・空梅雨に代表的な天気で、今にも降り出しそうな空が不得要領に晴れ、太陽が照りつけるというよりはむしろ空気自身が白っぽく光り輝いているような天候であった。 震災前と比べて王子赤羽界隈の変り方のはげしいのに驚いた。近頃の東京近郊の面目を一新さ・・・ 寺田寅彦 「ゴルフ随行記」
・・・それでやっと述べ得た事すらも多くは平凡でなければ不得要領であったり独り合点に終っているかもしれない。 青楓論と題しながら遂に一種の頌辞のようなものになってしまった。しかしあらを捜したり皮肉をいうばかりが批評でもあるまい。少しでも不満を感・・・ 寺田寅彦 「津田青楓君の画と南画の芸術的価値」
・・・これに対する自分の答えはいつも不得要領に終わるほかはなかった。いかなる人にいかなる恋をしたらいいかと聞かれるのとたいした相違はないような気がする。時にはこんな返答をすることもある。「自分でいちばん読みたいと思う本をその興味のつづく限り読む。・・・ 寺田寅彦 「読書の今昔」
・・・色彩や形態に関するあらゆる抽象的な概念や言葉を標準にして比較すれば造花と生花の外形上の区別は非常に困難な不得要領なものになってしまう。「一方は死んでいるが他方は生きている」という人があるかもしれない。しかしそれはただ一つの疑問を他の言葉で置・・・ 寺田寅彦 「病室の花」
・・・低気圧とは何の事だか、君の平生を知らない余には不得要領であったけれど、来客謝絶の四字の方が重く響いたので、聞き返しもしなかった。ただ好い加減に頭の悪い事を低気圧と洒落ているんだろうぐらいに解釈していたが、後から聞けば実際の低気圧の事で、いや・・・ 夏目漱石 「長谷川君と余」
・・・ 一太に会話の大部分は不得要領であった。一太は、ただ漠然いつ朝鮮へ行くのだろうと思った。この頃一太の母はこうして訪ねた先々で朝鮮行きのことを話した。一太にも話した。母親は一太をつかまえて大人に相談するように、「ねえ一ちゃん。いっそ朝・・・ 宮本百合子 「一太と母」
・・・ 遂に不得要領のまま、「では――そういう状態ですから一応御報告いたして置きます」 一応御報告というところへ云いつくせぬ小心な恨みをこめ、対手にはだが一向痛痒を与え得ず、父親が去ると、主任は椅子をずらして、「どうです」と自・・・ 宮本百合子 「刻々」
・・・と不得要領な返事を与えて置いて、自分の思う通りにズンズンさせて行った。「気味がよかった。と、其の話が出ると今でもよく云うけれ共、ほんとうに、二人の男を意のままに働かして、「坊っちゃん此処は、どうしましょうな。・・・ 宮本百合子 「二十三番地」
・・・ デレンコフはその答えとして民衆の苦しい生活について「本からとって来たように、不得要領に答えた」「でも――みんなは知識を望んでいるんですか?」「どうして。勿論さ! 第一、君は望んでいるだろう?」 そうだ。ゴーリキイは――望ん・・・ 宮本百合子 「マクシム・ゴーリキイの伝記」