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・・・次第次第に濃い嘘を吐いていって、切磋琢磨され、ようやく真実の光を放つ。これは私ひとりの場合に限ったことではないようだ。人間万事嘘は誠。ふとその言葉がいまはじめて皮膚にべっとりくっついて思い出され、苦笑した。ああ、これは滑稽の頂点である。黄村・・・
太宰治
「ロマネスク」
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・・・ 川端康成氏は、今日の文壇で、自身としての芸術的境地を守ること、切磋琢磨することのきびしい作家の一人として一部の尊敬を得ているのであるが、今月の「父母」の最後の章の効果を、作者自身は何と見るであろうか。慶子という少女の青春の美をめぐって・・・
宮本百合子
「十月の文芸時評」