出典:青空文庫
・・・ゆめゆめあるまじき事にして、徹頭徹尾、恕の一義を忘れず、形体こそ二個に分かれたれども、その実は一身同体と心得て、始めて夫婦の人倫を全うするを得べし。故に夫婦家に居るは人間の幸福快楽なりというといえども、本来この夫婦は二個の他人の相合うたるも・・・ 福沢諭吉 「日本男子論」
・・・さわれ曙覧は徹頭徹尾『万葉』を擬せんと務めたるに非ず。むしろその思うままを詠みたるが自ら『万葉』に近づきたるなり。しこうして彼の歌の『万葉』に似ざるところははたして『万葉』に優るところなりや否や、こは最大切なる問題なり。 余は断定を下し・・・ 正岡子規 「曙覧の歌」
・・・誦するにも堪えぬ芭蕉の俳句を註釈して勿体つける俳人あれば、縁もゆかりもなき句を刻して芭蕉塚と称えこれを尊ぶ俗人もありて、芭蕉という名は徹頭徹尾尊敬の意味を表したる中に、咳唾珠を成し句々吟誦するに堪えながら、世人はこれを知らず、宗匠はこれを尊・・・ 正岡子規 「俳人蕪村」
・・・ですからよくよく突き詰めて見ますれば、人は自分が生きるために働き、自分が成長するために学び、自分達の社会を一歩でも前進させるために自分達がよい政治を行ってゆくのが徹頭徹尾民主主義的な社会と申しますが、いわゆるブルジョア民主主義といわれる歴史・・・ 宮本百合子 「幸福の建設」
・・・対立して描かれている工場内反革命分子は、徹頭徹尾の悪玉だ。 劇の第一幕から終りまで、二つの型の対立的争闘が描かれてあるだけで、卓抜で精力的なコムソモールは、反動傾向の中にまじっている浮動的な分子を正しい建設に協力させ獲得するために組織的・・・ 宮本百合子 「五ヵ年計画とソヴェトの芸術」
・・・ これ以外には決してないと思われる仕事に対して、たとい量は少く、範囲は狭くあろうとも、彼女の真面目さは絶大であった。徹頭徹尾一生懸命であった。 そして、些細な失策や、爪ずきには決してひるまない希望を持っていたのである。 けれども・・・ 宮本百合子 「地は饒なり」
・・・女であるならば、戦争中ひとしずくでも涙をこぼした覚えのある女であるならば、戦争に徹頭徹尾反対した政党があったという事実を意味ふかくかえりみるのではないだろうか。その事実のうちに、千万言にまさる道義が存在することを今にして会得するであろうと信・・・ 宮本百合子 「婦人の一票」
・・・それゆえに彼女は徹頭徹尾独特の芸を有するがごとくに見え、また他人の成功しない所で成功するのである。これが彼女の秘密だ。 例をもって説明しよう。今諸君の前に一人の音楽の天才が現われたとする。彼は普通の人のごとくに歩み、語り、食い、眠る。こ・・・ 和辻哲郎 「エレオノラ・デュウゼ」
・・・しかもこれらの風物は徹頭徹尾著者の人格に滲透せられているのである。「観る」とはただ受容的に即自の対象を受け取ることではない。観ること自身がすでに対象に働き込むことである、という仕方においてのみ対象はあるのである。我は没せられつつ、しかも対象・・・ 和辻哲郎 「『青丘雑記』を読む」